その二

それから数時間後……

外食にする事にした横島と魔鈴が百合子を連れて行ったのは、少し裏通りを入った場所にある小さな寿司屋だった

カウンター席しか無い小さな寿司屋だが、腕のいい大将の居る隠れた名店である

値段は回転寿司ほど安くは無いが普通の都内の寿司屋と比べるとかなりリーズナブルで、横島達がたまに来ている店なのだ


「いらっしゃい」

横島達が店に入ると、初老の大将がいつものように元気に迎えた


「突然お願いしてすいません」

「いや、いつも助かってますよ」

店に入るなり、数時間前に予約した魔鈴は少し申し訳なさそうに頭を下げる

横島達は人数が多いので、いつもは前日に予約をして来ていたのだ

この店は腕と値段は文句が無い店なのだが、問題は店内の狭さにある

普段はカオスと食べないマリアも合わせて8人で来るから、予約しないとまず座る場所が取れなく

今日はカオスとマリアが居ないとはいえ、百合子が居て7人なためギリギリだった


「あんたが寿司屋に来てるとはねぇ~」

席に座り店内を見渡す百合子は、少し意外そうな表情をしている

横島と魔鈴の普段の生活状況を見るためにわざと店を任せた百合子は、顔なじみの寿司屋があるのは少し予想外だったようだ

百合子達がナルニアに行く前はもちろん家族で外食する事もあった横島だが、決して味にこだわる方ではなかっただけに百合子は驚きの部分が多いのだろう

まあその辺りは未来での魔鈴との生活が影響を及ぼしているのだが……


かつての一人暮らし時代に食べる物に困っていた横島は、基本的に何でも美味しく食べる事が当然だった

それは今も変わって無いし悪い事では無いのだが、料理人としては味がわからなければ話にならない

未来で横島は料理人として修業をしつつ、味覚なども経験を積んでいた

まあ、実際は魔鈴と同じ物を食べて居たら自然にそうなっていただけなのだが……


元々向上心の強い魔鈴なだけに、新しい店や話題の店には積極的に外食に行くのが当然だった

それが魔鈴の料理人としての修業の一貫であり、当然横島やタマモ達も外食には同行する

そんな生活が続いた結果、横島も料理には積極的になり外食が好きになっていたのだ


「外食はめぐみの唯一の趣味なんだよ」

驚き見極めるように見つめる百合子に、横島は魔鈴の趣味だと伝えていた

本当は料理人の修業の一貫でもあるのだがそれは言えないし、実際魔鈴に趣味はと聞けば外食くらいしかないだろう

基本的に仕事が趣味のような人なので、魔法と料理以外はあまり興味を示さなかったのだ


(そう言えば、随分質素よね)

百合子は事務所や魔鈴の自宅を思い出すが、収入の割には質素と言うか地味である

若くお金もある魔鈴なのだからファッションや生活にもっとお金をかけてもいい気もするが、百合子が今日見た限りでは服装も家も予想以上に質素だったのだ


(本当に不思議な子ね)

魔鈴にチラリと視線を移す百合子は、横島の変化と同じくらい魔鈴自身にも興味を持っていた

自分とは全く違う雰囲気を持ちながら、どこか共通する感覚がある魔鈴がかなり気になるようである
90/100ページ
スキ