「別れた？　またケンカしたのか…　離婚してもいいけど、一人で暮らしてくれよ」

面倒そうな表情の横島は相手にするのが嫌なようで、話もそこそこに自宅の方に歩いていく


「忠夫！！」

その瞬間、美衣とケイは突然百合子から発せられる怒気の圧力に固まってしまう

百合子は怒鳴り声と共に、凄まじい圧力を横島にかけていたのだ


「気に入らなきゃすぐにそうやって力で抑え付けようとするよな…　いい加減止めてくれないか？」

冷めた視線で百合子を見る横島の姿は、百合子だけでなく美衣やケイにとって始めて見る姿だった

かつての横島なら百合子が圧力をかければ簡単に怯えてビビったが、さすがに横島も精神年齢が３０近いため今更ビビることはない

と言うか、百合子のそんなところが横島は一番嫌いである


一方、美衣やケイは百合子とは別の驚きであった

普段の横島が冷たい表情をしたり怒ったりする事は、全くと言っていいほど無い

そんな横島が始めて見せた表情に、二人は驚いていた


「……」

百合子は以前と全く違う反応を示す横島に違和感が深まるが、表面上は圧力を緩める気配は無い

そのまま二人はしばし睨み合う形になるが、横島は圧力を止めない百合子を無視するように自宅に行ってしまう


（思ったより険悪になってしまいましたね……）

横島が去った後、複雑そうな百合子を見て魔鈴は少し予定と違う形になった事を考えていた

本当はもう少し普通に接して横島が一人前に頑張ってる姿を見せれば、ある程度納得させられると考えていたのだ


（忠夫さんの中には思った以上に、お義母さんに対する不満があったのですね）

未来の百合子ならともかく、この時代の百合子はあまりに一方的に押し付け過ぎている

横島が昔からそんな押し付けを嫌っていた事も魔鈴は知っていた

元々仲が悪い親子ではないのだが、二人の悪い面が出てしまったのだ



「とりあえず、２～３日泊まっていかれますか？　お二人共もう少し落ち着いて話した方がいいでしょうし」

重苦しい沈黙を破ったのは魔鈴だった

横島と百合子の両方の気持ちを理解しているだけに、自分が間に入るしかないと思う


「そうね。　突然で申し訳ないけどお願いするわ」
　
少し悩んだ百合子だが、予想以上の息子の変化にこのまま引き下がるつもりはない

息子が変わった原因を納得がいくまで調べるつもりである

結局横島と魔鈴のこの時代の百合子との初対面は、予想以上に波乱に満ちた結果となっていた



それから百合子は魔鈴の自宅に案内されるが、そこは驚きの連続だった

事務所の中の普通のドアを開けると、異界の自宅に繋がっているのだ

今までの自分の価値観で判断出来ない世界なのだと、百合子は改めて感じている


（このインテリアは誰の趣味なのかしら？）

その後自宅を案内されて異界と言う人知を越える存在も驚きだが、お世辞にもいいとは言えない部屋の趣味も驚きだった

そんな中で案内された客室に荷物を置いた百合子は、ようやく一息ついて再び横島の事を考え込む


（魔鈴めぐみは予想以上の人物ね。　環境も悪くない。　ただ忠夫の反応がね……）

魔鈴の事や細かい部分より一番気になったのは、やはり横島の対応である

成長と言うレベルでは無い感じが拭えない

まるで別人のように感じていた