そんな横島達が案内されたのは、ホテル内にあるフランス料理の店であった

４０代と思われるフランス人料理長の指示で、横島達は野菜の皮剥きを始める

作業については、始めに包丁の種類や使い方を簡単に説明されただけで、基本的には自由にさせていた

職場体験の限られた時間で出来る事は少ないため、今回は一通り簡単な作業をさせて自分達で料理を作っていくようである


（久しぶりだな～）

過去に戻って以来包丁を握る機会の無かった横島は、久しぶりに握る包丁に懐かしさを感じていた

毎日厨房で料理を作っていた未来での生活がひどく懐かしい


そんな横島の周りでは、愛子や加奈達が手慣れた手つきで野菜の皮を剥いてゆく

周りにつられるように横島も野菜の皮を剥き始めるが、その作業には愛子達のみならず指導していた料理人達も驚き見つめていた


「横島君、随分手慣れてるね。　誰に習ったんだい？」

つい未来の感覚で野菜の皮を剥いていた横島の作業は、明らかに素人の皮剥きには見えない

指導していた料理人は驚き訳を尋ねていた


「え～と…　知り合いの人に習いました。　ヨーロッパに留学経験もある人で、料理も得意なんです」

一瞬ヤバいと思った横島だが、なんとか嘘と真実を繋ぎあわせてごまかす


さて横島の料理の腕だが、約９年ほど修業していると考えれば普通のレベルだった

優秀ではあるが、天才ではない

ただ、それは横島が２０代後半ならばの話である

高校生の横島がそれだけの料理の腕を持っている事は明らかに変であり、見方によっては料理の天才なんかに見えてしまう


「留学…？　もしかして彼女って噂の魔鈴めぐみさん？」

「知ってるんですか！？」

料理人が横島の話に、相手が魔鈴かと尋ねると横島は驚き目を見開く


「君達を知らないほど僕は年寄りじゃないよ。　映画も見たしね」

まだ２０代らしき料理人は笑って答えていた

そもそも、彼らはＧＳの横島が何故レストランの職場体験に来たのか疑問だった

相変わらず有名人の自覚が無い横島は気がつかなかったが、料理人達は最初横島が来て戸惑っていたのだ


「ありがとうございます」

照れ臭そうにお礼を言う横島だが、話てばかりもいられないので作業に戻る


（男の横島君に料理で負けるなんて……）

一方話を聞いていた愛子達は、予想外の横島の料理の腕に密かに女のプライドが傷ついていた

プロの料理人ならともかく、少し前まで食べ物に困っていた横島に料理の腕で負けるのはショックだったらしい


（女として負けれ無いわ！）

そんな横島に対抗心を燃やす愛子達だが、料理が進めば進むほどプライドは傷ついてゆく

横島としてはあまり目立たないように気をつけて料理をするのだが、魔鈴が教え込んだ基本的技術が確かな為に素人の愛子達と比べればどうしても目立ってしまうのだ


（高校生に負けるなんて……）

そして同じく修業２～３年目らしき新人料理人もまた、プライドが傷ついていた

必死に料理の修業をしていたにも関わらず高校生に負けていたのだから、こちらもかなりショックだったようである