その二

「有名になるつもりなんて無かったんだけどな~」

相変わらず自分が人に好かれるのが納得がいかない横島は、困ったようにつぶやく


「歴史も細かな部分は比較的簡単に変わるのでしょうね。 私達の人気が出ても出なくても、大まかな歴史に関係無いですし…」

前回のフェンリル戦もそうだが、いろいろ歴史が変わっている現実を考え込んでいた魔鈴は、歴史は思った以上に繊細で難しいと改めて実感する

自分達が未来を知るがゆえに、自分達の知らない未来に向かっていく

ある意味当然の結果なのだが、アシュタロスとの戦いを控えた今は出来るだけ自分達の知る未来へ導きたい


「まさか学校に手を出すとはな…」

「まあ、六道さんらしい方法ではありますよね。 あまり露骨な手段を使えば、今の私達の知名度だとすぐに業界内に広まりますし、反感も買うかもしれない。 ですが、今回はあくまで学校の問題です。 仮に私達が対抗策を用いても、六道家は損はしないし失敗にもならない」

未来において六道家のやり口を少しは知る魔鈴だが、相変わらずやり口が上手いと感心してしまう

そしてこれからも、六道家のこう言った工作は続くのだろうと確信していた


「アシュタロス戦が終わるまでは、六道家を敵に回す訳にはいかないしな…」

「ええ……」

ルシオラ達姉妹の件がある横島と魔鈴は、アシュタロス戦前に六道家と対立する訳にはいかない

戦後に三姉妹の自由と安全を確保する為にも、GS業界を支配する六道家に睨まれるのは得策ではないのだ


「今回はあちらが学校の問題として扱う以上、こちらも学校の問題として扱わなけねばダメですね。 出来るだけ現状のままの関係を維持するように…」

現状では魔鈴としてもあまり手の打ちようが無かった

あくまで学校の問題として、時間を引き延ばすしかない


(問題は忠夫さんがたまに抜けてるんですよね…)

そして魔鈴の心配は、自分の居ない学校での横島の行動である

修学旅行の時のように、たまに抜けた行動をする時があるのだから


(もう少し、プライドと警戒心を持って欲しいのですけどね)

昔に比べれば格段に成長した横島だったが、自分の事になるとイマイチ警戒心が足りない

新たな問題に、魔鈴は静かにため息をついていた


一方横島と魔鈴が話し込んでいる隣の部屋では、タマモとシロが二人の会話に聞き耳を立てていた


「六道家が動いてるようね…」

「それは先生と魔鈴殿の実力なら、誰でも欲しいでござろう?」

「狙いは実力じゃないわね。 人気やカリスマ性よ。 利用価値でいえば、実力よりそっちが高いわ」

コソコソと話して相談するタマモとシロ

いつ自分達の出番が来てもいいように、横島と魔鈴の話を盗み聞きしている


「それならば尚更、拙者達に出来る事は無いでござるな…」

「そうね… やはり早く未来の時の力を取り戻さないと、何も出来ないわ」

何も力になれない事に落胆するシロとタマモは、静かに魔鈴の自宅のある異界に移動していく

魔鈴の自宅から少し離れた場所に移動した二人は、横島達に隠れて修行を始める

アシュタロス戦まで時間が無い

二人は刻々と迫るタイムリミットに焦りを感じつつ、己の力に磨きをかけていた


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