その二

それから一週間が過ぎていた

『踊るGS』第二話の放送も高視聴率をキープしている頃、横島の周りは相変わらず騒がしい日々が続いている

事務所や学校にファンレターが来るのも当然になり、授業の合間にファンレターに目を通す横島の姿もすっかり普通になっていた


「そういえば横島君、ファンレターの返事出してるの?」

「ああ… 手書きのお礼の文章を、コピーしたのを一律で返すだけだけどな。 さすがに毎回書くのは無理だからさ」

休み時間にファンレターを読む横島を見つめていた愛子は、返事をどうしてるのか疑問に思ったらしい

女にマメで優しい横島なら毎回返事を出してるかと思ったようだ


「そんな方法があったんですか!? 教えてくれれば良かったのに… 僕なんか毎晩何時間もお礼を書いてるんですよ」

横島と愛子の会話に、取り乱したピートが詰め寄っていく

どうやら生真面目なピートは一つ一つにお礼の返事を書いていたらしい


「いや、細かい事はめぐみがやってるからさ… それにただでさえ学校とGSの掛け持ちで時間が無いのに、ファンレターまで裁ききれんだろう。 普通に考えろよ」

詰め寄るピートに、横島は若干引き気味の苦笑いを浮かべて答える

師匠の唐巣に似たからか、妙に融通の効かないピートが少し憐れだった


「そんな……」

「ピート君、普通は人気のある芸能人とかはお礼は書かないわよ。 たまに横島君みたいに一律のお礼状は来るけど…」

ショックを受けるピートに加奈は一般的な現実を教えた

愛子や加奈はまさか本当に自筆で返事を返してるとは思わなかったらしく、驚きと憐れみの表情である


「お前んとこ大丈夫か? 神父の教会なら、お礼の切手代も馬鹿にならんだろう。 まさか飯を食べないでお礼出してるのか?」

あまりにショックを受けるピートの姿に横島は心配になり事情を聞くが、やはり心配は当たっていた

ただでさえ良く食べる雪之丞が教会に住んでいるため、神父はかなり無理をしているらしい

食費を削ってファンレターのお礼を出している有名人など、世界を探してもピートだけだろう


「どこから聞いたのかわかりませんが、教会が貧乏なのを知ってるファンの方達が居て、その方達が食料を送ってくれるので先生はなんとか食いつないで居ますが……」

落ち込んだ様子で語るピートの姿は哀愁が漂っていた


(どんだけ貧乏が有名なんだよ… しかも世間的に儲かる商売のはずのGSが、食料を送って貰い食いつなぐとは…)

あまりの生活環境に言葉を失う一同だが、横島は少し考え込んでいた


「とりあえず、今日学校終わったら事務所に来いよ。 ファンレターの返事は、うちの事務所でなんとかするからさ」

しばらく考え込んでいた横島だったが、ピートのファンレターの問題を何とかしようと思う

理由としては、現状のピートの人気は未来では無かったのだ

多少なりとも横島達の行動の結果とも言える

それに空腹の辛さを誰よりも理解している横島だけに、放置も出来なかった


「良かったわね、ピート君」

「はい! これで夜ゆっくり眠れます…」

笑顔で声をかけた愛子の言葉に、涙を浮かべて喜ぶピートの姿はやはり不憫としか言いようが無い光景である


「ワッシもおなごから手紙が欲しいですノー」

そして、誰にも聞こえないように呟く彼もまた不憫だった


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