その二

「魔鈴もだけど、横島君も不思議なほど急に力を付けたわよね… 霊力は小竜姫様の影響だとしても、剣術や動きは変わりすぎてるわ」

西条と同じく魔鈴に疑問を感じる令子だったが、彼女は横島の変化の方が不思議で仕方なかった

いつの間にか今の横島になっていたが、改めて考えると疑問が次々に浮かんでくる

文珠などと言う伝説の能力をどうやって手に入れたのか、非常に気になっていた


「あら、横島の変化は師匠がいいんじゃないの? 令子の事務所に居た頃より、数倍まともになってるワケ」

「なんですって!! あんな役立たず、こっちからクビにしたのよ!」

ニヤリと意地悪な笑みを浮かべたエミの視線と言葉に、令子は怒りを露にして睨みつける


「二人共、止めないか! 魔鈴君や横島君がどうやって強くなったか知らないが、今戦ってるのは彼らだ。 我々は万が一の時の為に、彼らをバックアップするべきだろう!!」

いがみ合う令子とエミに、唐巣は怒りの篭った言葉をぶつけた

前線で戦っている者が居るにも関わらず、魔鈴や横島の強さや秘密がどうとか話している令子達に唐巣は怒りを感じている

戦力になれなくても万が一魔鈴達が失敗して撤退する時の為に、自分達もバックアップするのは当然だと唐巣は考えているのだ


「西条君、君は先に戻って失敗した時の対策をたてるべきだ。 私はここで彼らをバックアップする」

唐巣はそう告げると、森の中を戻っていく


「唐巣神父… そうだな。 僕は一足先に戻って対策を立てよう」

唐巣の怒りと言葉に驚きハッとした西条は、急いで車に戻って行った


「神父が怒るなんて珍しいワケ」

「私も初めてよ。 多分、自分の無力さに怒りを感じてるんだわ」

唐巣の怒りですっかり毒気の抜けた令子とエミは、信じられないような表情をしている

あの穏やかな性格の唐巣が怒るなんて、思ってもいなかったのだろう


「私達も行くワケ」

「ええ」

さすがに見てる訳にもいかない二人は、唐巣の後を追いバックアップに向かっていく



そして令子達が動き出した頃、魔鈴の魔法は最終段階を迎えていた


「……全てを無に帰すべき扉よ! 今こそ形を成してその姿を現せ!」

魔鈴の呪文が終わると同時に横島は魔法陣を地上に移動させる

文珠により形成しているこの魔法陣の最大の利点は、魔法陣の位置を動かせるのだ

文珠をコントロールして飛ばすのと同じ要領で、横島は魔法陣をフェンリルの位置に移動していく

無論、魔法陣として出来上がった物を移動するのは簡単ではないが、真下に移動するくらいならば可能であった


「マリア! ジロウ殿、退避じゃ!!」

地上で魔法陣の様子を見ていたカオスは、慌ててフェンリルから離れていく

この魔法は使用経験がほとんど無いため、カオスですらどの程度の扉が開くかわからないのだ



そして…、魔法陣の真ん中に扉が開いた

いや、扉と言うよりは穴と言った方が近いかもしれない

何も存在しない時間と空間の隙間の亜空間と繋がる穴が開いたのだから


開いた穴はまるで全てを吸い込むように凄まじい勢いで、周囲の空気や物を吸い込んで行く


「グオォォーン!!」

自分に纏わり付いていた煙幕が穴に吸い込まれて、フェンリルはようやく亜空間ゲートに気が付く

未知への恐怖からか見知らぬ穴への警戒からか、穴を威嚇するように叫び霊波砲を乱射していた

しかし、フェンリルの霊波砲ですら穴に吸い込まれていくのみである
66/100ページ
スキ