その二

「美神君……」

こんな状況にも関わらず金の話をする令子に、唐巣は頭を痛める


「グォォォーン!!」

一方腹部と全身にダメージを受けたフェンリルは、痛みと怒りにより正気を失ったように周りを無差別に攻撃をしていく

森の木々を薙ぎ倒し、霊波砲であちこち破壊するその姿は怪物そのものである


「こんなのくらったら死んじゃうワケ! 一か八かアルテミスを……」

一か八かアルテミスを喚びだそうと、エミが魔法陣に視線を移した瞬間

エミの横を凄まじいエネルギーが通り過ぎた


ドガガーン!


凄まじいフェンリルの霊波砲は、地面を削ってアルテミス召喚魔法陣を破壊してしまう


「そんな… 魔法陣が……」

最後の希望を絶たれた西条は、呆然と破壊された魔法陣を見つめた

どう考えてもフェンリルは人間が倒せる相手ではない

それがわかるゆえに西条は、絶望のどん底に落とされた気分だった


「ちっ! いったん引くわよ」

令子は放心状態の西条を引っ張り、急いでその場を離れて行く

そしてエミと唐巣もこのままでは無理だと判断して、同じようにその場を離れて行った



「ドクター・カオス、精霊石砲に異常発生。 次弾は・不可能です」

「うむ、仕方ない。 横島達と合流しよう。 切り札を使わねばなるまい」

そして精霊石砲を放ったマリアとカオスだが、急遽使えるようにした精霊石砲は限界だった

マリアは精霊石砲の砲台を切り離し、カオスを抱えて横島達の元へ向かう



「やはり実戦にはまだ無理でしたね」

一発目が当たった時は驚きながらも期待した魔鈴だったが、そうそう都合良くはいかない

二発目で早くも異常をきたしたのは明らかであった


「中途半端にダメージ与えたから手が付けられないな…」

魔鈴と共にフェンリルが無差別に放つ霊波砲をかわしながら今後の対処を考えるが、あんなに見境無く暴れられたら近づけない

横島と魔鈴は困ったように考えている


「皆さん大丈夫ですか?」

フェンリルからいったん離れた横島と魔鈴は、ジロウとカオスとマリアと合流していた


「拙者は大丈夫でござるが、あれではどうしようも…」

ジロウはフェンリルの様子を見るが、フェンリルはたかが人間に傷つけられた怒りからか、それとも傷つけられた腹部の激痛で我を見失っているのか、正気を取り戻す様子は無い


「己の巨大な力に飲み込まれたのじゃろう。 いかに祖先の力とはいえ、人狼には荷が重い力じゃ。 痛みと怒りによりタダの化け物と化したのだろう」

フェンリルの様子を見つつ解説するカオスだが、さすがに正気を失うとは予想外であった


「魔法陣を破壊されたのは痛かったな… アルテミスが居ないと、フェンリルにトドメが刺せない」

横島はすっかり荒れ果てた魔法陣の跡地を見つめて、ため息をはく


「いかにオリジナルより弱いと言っても、私達では霊力の絶対量が違い過ぎます。 このままでは滅することも救うことも不可能です」

このまま攻撃すればかなりいいところまではいくだろうが、トドメは刺せないと魔鈴は確信している

未来では弱まったところをアルテミスが古き神々が眠る世界へ連れて行ったから問題無かったが、トドメを刺すなら一時的にでもフェンリルと同等のパワーが必要なのだ


「フェンリルの霊力は・測定不能。 ミス魔鈴と・横島さんでは不可能です」

先程からフェンリルを監視しているマリアもまた、横島と魔鈴ではパワーが足りないとの現状を告げた


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