その二

フェンリルのスピードは凄まじかった

跳ぶように走るその姿に、令子達もまた逃げるのは不可能だと悟る


「なんとか勢いだけでも止めなければ…」

唐巣と西条は魔法陣を守ろうと霊力を高めていく

死ぬかもしれないがここで魔法陣を守らねば、彼らに対抗手段は無いのだから


「纏めて噛み砕いてやる!」

フェンリルはアルテミスを召喚される前に、魔法陣と西条達を始末するつもりだった

万が一横島と魔鈴にアルテミスが力を貸してその力が数倍になれば、かなり危険だとフェンリルは本能的に理解していた


本当は横島と魔鈴に神降ろしは不可能なのだが、フェンリルは知らない訳だし



そんなフェンリルがあと一歩でジロウや西条達に届こうとし時、どこからともかく空気を切り裂くような音がして来た


ヒューー


ドガーーーン


「グォォ……」

横島も魔鈴も西条達も、何が起きたか理解出来なかった

突然何かがフェンリルに飛んで来て、ダメージを与えている

フェンリルの腹部に飛んで来た物が突き刺さっており、あまりの痛みにフェンリルはうずくまっていた


「まさか…」

驚きながらも飛んで来た先を見る魔鈴

そこには右肩に大型の砲台を装備したマリアと、不敵な笑みを浮かべるカオスが居た



「試射もしとらん割にはちゃんと命中したのう。 マリア、次弾装填じゃ。 足を狙え、動きさえ止めればいい」

「イエス・ドクターカオス!」

不敵な表情をしているカオスだが、実は無事に作動したことにホッとしているようだ


「カオス…、精霊石砲を持ち出したのか? あれはまだ未完成だろ!?」

「間に合わないと思ったんですが…」

横島と魔鈴ですら知らない間にカオスが持ち出した未完成の精霊石砲

それは人造精霊石を弾にした小型ミサイルだった

人造精霊石とは、横島が京都で光秀から受け取ったアイテムの中にあった、古文書に記してある古代の秘術で作った精霊石である

カオスはその秘術を使い作った精霊石を人造精霊石と名付けて、武器の開発などを行っていたのだ


本当はまだ開発途中の精霊石砲を、カオスは無理矢理使える状態にして使用していた


「目標・フェンリル右足、標準補正。 精霊石砲・撃ちます」

マリアは初弾のデータを元に狙いを定め、精霊石砲を発射する


ヒューー


再び空気を切り裂くような音と共に、フェンリルの右足に向けて精霊石は飛んで行くが…


パリーーン


命中する寸前に精霊石弾が破裂して、散弾のようになりフェンリルの全身に降り注ぐ


「グァァァー!!」

ダメージは初弾より小さいが、全身に精霊石を食らったフェンリルは叫ぶように悲鳴を上げた


「やはり強度が足りなかったか… 精霊石はもろいからのう」

失敗になるのだが、カオスは落ち込むこともなく原因を考えていく



一方西条達だが、突然の事態に呆然としながらカオスとフェンリルを交互に見ていた


「あれは精霊石では…」

「精霊石なら、一発300億はするわよ!」

突然の事態に驚きが収まらない西条が精霊石だと見抜くと、令子はすぐに金勘定をしてもったいなそうにカオスを見つめる

命の危機は理解してるが、それでももったいないと思ってしまうようだ


61/100ページ
スキ