その二

村の広場に集まったのは、女子供や老人の人狼達である

理由も聞かされずに集められたため、一応に不安そうな表情でお互いの顔を見ていた


「さて、集まってもらったのは他でもない。 重傷者達の容態が芳しくないのじゃ。 ここに集まってもらった者達には血液を分けてもらいたい。 残念ながら人狼の血液は人間とは違うゆえ、私でも持ち合わせがないのだ」

時間が無いことからカオスは簡単に説明するが、人狼達は血を分けると言われても意味がわからないようで、不思議そうな顔でカオスを見つめている


「カオス殿、血を分けると言われても我々には理解出来ません。 しかし、長老達の為に必要ならば皆協力するでしょう」

仲間達の疑問をカオスに伝えるジロウは、説明よりも治療を優先させて欲しいと告げていた


「うむ、では血を調べるゆえ採血させてもらおう。 注射なら知っておるか? 少しチクリとするが害は無い」

そうしてカオスはジロウから採血をして、血液型を調べていく

途中で重傷者の血液型を調べていた魔鈴も作業に加わり、二人で重傷者に合う血液型を探していった


幸いにして狭い村で閉鎖的に生きて来た人狼なだけに、血縁関係がある者達ばかりである

重傷者達と同じ血液型は簡単に複数見つかった


「それでは輸血を始めるぞ。 人狼族は生命力が強いゆえ、輸血をすれば皆助かるだろう」

血液型が一致した者達に輸血の方法を説明して、出来るだけ負担にならないように輸血を始める


正直説明されても、意味をほとんど理解してない者も多い

しかし、仲間を大切にする人狼なだけに助かるために必要だと言うことだけは理解しているようだ



それから2時間後…

交代しながら輸血を終えた重傷者達は、ようやく峠を越したようである

そしてずっと重傷者に付きっ切りだった横島達は、ようやく一息ついていた


「危ないところだったな… 未来の知識が無ければ助からなかったかもしれん」

お茶をすすり、ホッとするカオス


実は人狼の体については、未来で少し調べたことがあるのだ

妖怪も病気などになるが、実際に妖怪の体を調べた者は居ない

唯一物好きな天狗が薬を作ってはいたが、それも一種類あるだけだった

妖怪と言っても種類や属性も様々な為、カオスと魔鈴はいざという時のために身近な妖怪の体を調べたことがあるのだ


「特に人狼は、元々神でしたから特別ですしね。 霊体の比率が人間や動物の比じゃないですから…」

最大の峠を乗り越えたことにより、魔鈴もまたホッとしている


「長老達は助かったのでしょうか?」

「うむ… まだ油断は出来ぬが、わしがしばらくここに居て様子を見るゆえ問題無かろう。 横島達とおぬしは犬飼とケリをつけるのじゃ」

長老達の容態を尋ねるジロウに、カオスは少し表情が険しくなり語った

傷自体が文珠により治療したので、生命力のある人狼ならば助かるだろう

しかし油断出来る状態ではないし、万が一再び犬飼が襲撃をして来る可能性も捨て切れないため、カオスとマリアはしばらく人狼の里に留まることになった


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