その二

「なによ。 やるって言うの? いつでも相手になるわよ」

やはりこの二人、基本的に合わないのだろう

魔鈴の言葉に令子の怒りは増大して、神通棍を手にしていた


「私は万が一の時の責任の問題を言ってるのです。 ご自分で判断すると言うことは、当然責任を取る覚悟があるのでしょう?」

いつの間にか魔鈴の表情からも笑顔が消えている

令子ほどの実力者なら、一度戦った犬飼の危険性は理解してるはずなのだ

その上で休業保障などと言い出した令子に、魔鈴は怒っている

そもそも守られる側の態度ではない


「二人共落ち着いてくれないか?」

一触即発の空気の中、仲裁に入ったのは西条だった

令子は西条の言葉に渋々神通棍を収めて無言になる


「可能性の話をしてもキリが無い。 令子ちゃんは自分で判断してくれて構わないよ。 ただし、こちらの要請に答えてくれないなら護衛は付けられない。 それはわかってくれ」

西条は、令子と魔鈴の中間の意見で纏めた

現段階ではただの可能性に過ぎず、令子に隠れてることを強制するのは不可能なのだ

自分の身を自分で守るなら好きにしていいと言うことであり、責任問題は棚上げにしていた


「わかったわ。 元々誰かに守って貰うなんて好きじゃないし、私は自由にするわ」

ここまで来て自分から折れると言う選択肢は令子には無い

その高すぎるプライドが許さないのだ

結局令子はそれ以上語ることなく、隠れてるのか仕事するのかすら言わなかった


その後明日も犬飼の捜索を続けること以外に何も決まること無く、この日の話し合いは終わる



「ククク… そんなことがあったのか」

自宅に帰った横島達は、深夜にも関わらず起きていたカオスに事情を説明すると、カオスは面白そうに笑ってしまう


「まあ、美神さんだしな… 人に頼ることはしないさ」

冷めた表情で言い切った横島は、令子が犬飼に狙われる時点でこうなる気がしていた


「らしくないのぉ。 美神令子の戯言に付き合うなど」

カオスにしてみれば令子のことを理解している魔鈴が、わざわざ喧嘩するような展開にしたことに驚いている


「別に近くで護衛する必要は無いですから。 ハーピーの時と同じように美神さんを監視したらいいだけですし。 今後の事もあるので、甘やかすのは良くないと思っただけです」

横島と同じく冷めた様子の魔鈴だが、令子の性格の悪さに少しウンザリもしていた


「それに満月までは半月はあります。 今なら犬飼にパワーを与えても私達で倒せるはずですから」

魔鈴としては、令子を必要以上に甘やかす気は無い

犬飼の問題は、満月にならないとフェンリルに変化出来ないのは知っているのだ


仮に犬飼が令子を襲っても、満月までまだ日にちのあるうちなら逆に退治するチャンスになる

令子は怪我などはするだろうが簡単に殺されるタイプではないし、少しくらいのタイムロスなら仕方ないと思っていた


「そうじゃのう… 無差別に犬飼を探すよりは、美神令子に絞った方が犬飼を発見出来るじゃろ。 監視用の使い魔を美神令子に付けるかの」

少し考えていたカオスも、この際令子を囮に使う方がいいと判断した

結局ハーピーの時と同じように、令子とその周囲を見張ることが決まる

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