その二

「長老…」

正直ジロウは、話の真偽の判断に困っていた

娘であるシロの様子から見ても信じてやりたいが、信じるにはあまりに荒唐無稽な話である


「シロは未来で修業したと言ったの? ならばその成果が見たいの」

どちらかと言えば長老はシロの話を信じているが、確固たる証が欲しかったのも事実であった


「わかったでござる!」

長老の話に喜んだのはシロだ

二度と再会出来ぬと思っていた父親に、自分の実力を見てもらえる喜びを感じている



朝日が辺りの家や畑を照らす中、村の広場でシロと対するのは父ジロウであった

我が子の実力を一番知るジロウが、自分から相手をかって出たのだ

突然行われる力試しに、事情を知らない人狼達はジロウがシロに稽古でも付けるのかと思ったようである

もちろん横島達も見守る中、シロとジロウは木刀を手に向かい合っていた


「では、始め!」

長老が審判となり始まりの声を上げる


ジロウはシロを見極めるように剣を中央に構え、微動だにしない

そしてシロも動かなかった


シロは嬉しくてまた涙が込み上げて来そうになっている

突然犬飼に殺された父との思いもしなかった再会

そんなシロには未来の記憶と、この時代の二つの記憶がある

今のシロは未来のシロでもあるが、この時代のシロでもあった

未来に比べて、幾分子供っぽくなったのはそのせいかもしれない


「どうしたシロ。 来い!」

険しい剣士の顔つきのジロウに促されて、シロは感情を抑えるように気合いを入れて走り出す


「うぉぉー!」


バキッ!


夢中でジロウに切りかかるシロだが、僅か一撃でジロウに吹き飛ばされる


「あれ… 拙者?」

シロは何故一撃で吹き飛ばされたか、理解出来ない

それは横島や魔鈴や父との再会で、冷静さを失ったシロは大切な事を忘れていたからである


そう…

今のシロは体が小さいのだ

未来に引きずられるように妖力は幾分使えるが、体は子供のままなのである

間合いやリーチ、それにスピードやパワーも未来の感覚で動いたシロは、体や妖力の違いに戸惑っていた


「ハハハッ…」

ジロウはそんなシロを見て何故か笑い出す

それに釣られるように長老と横島達も笑ってしまう

他の人狼達がポカーンとするなか、未来を知る者達はシロの初歩的なミスに気が付いていた


「良く修業をしたな…」

実力を見せれずに笑われてしまい、落ち込むシロをジロウは優しく抱き上げる


「父上! 拙者の実力はこんなものではっ!」

悔しそうにもう一度やらせて欲しいと言うシロに、ジロウはもうわかったと告げていた

毎日シロに稽古を付けているジロウなのだ

本当はシロが木刀を構えた時点で、比べものにならないくらい実力を上げた娘に気が付いていた


「シロ… あんた自分の体の大きさ忘れてるわ。 それに感覚がまだ体と一致してないのよ。 もうちょっと落ち着きなさい」

少し呆れたようなタマモの言葉に、シロはハッとしたように自分の体を見回す

どうやら気が付いて無かったらしい


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