その二

「この姿ならわかるかの?」

老人が変わったのは鎧姿の武者であった


「光秀…」

横島と魔鈴は信じられないような表情でその姿を見つめている

老人が変わったのは紛れも無く、戦国時代で出会った明智光秀でだったのだから


「あれから数百年過ぎたが、ようやく会えたな… ノスフェラトゥを退治する為に共闘していた土御門家に頼んで、古代の秘術を使い刀に意識を残した。 今一度二人に会うためにな…」

あまりの事態に呆然とする横島と魔鈴に光秀は懐かしそうに語っていた

一方話の全く見えないピート達だが、ノスフェラトゥの名前にはピートが反応するも言葉を挟まずに見守っている


「随分長生きしたみたいだな、光秀」

「お久しぶりです。 光秀様」

ようやく事態を把握した横島と魔鈴は、ホッとしたように光秀に語りかける

突然の事態に驚きはしたが、懐かしい顔に二人の緊張感は解けていた


「私は十分過ぎるほど生きた。 ただ一つ心残りだったのは、そなた達二人にもう一度会えなかったことくらいか。 だがそれも今日会えたので満足じゃ。 あの時は本当にありがとう」

笑みを浮かべた光秀は横島と魔鈴に頭を下げ、懐かしそうに見つめている


光秀にとって横島と魔鈴は奇跡のような存在だった

突然戦の最中に現れて、国を救い去って行った

まるでお伽話に出て来る神の使いのような存在

そんな横島と魔鈴にもう一度会いたい


それが光秀最後の願いであった



「さて、横島殿と魔鈴殿には私が生涯をかけて集めた霊具を譲りたい。 横島殿が持つ刀は草薙の剣と呼ばれる刀… その昔、安徳天皇が平家と共に都から持ち出した宝剣。 事の真偽は確認してないが、恐らく本物だろう。 その他にもいくつかある。 是非受け取ってくれぬか?」

「草薙の剣!?」

横島と魔鈴は驚きその刀を見つめる

ただの刀では無いと思っていたが、そんな貴重な刀だとは思わなかった


「しかし、そのような貴重な品を頂く訳には…」

少し困惑したような魔鈴が悩みながらも光秀に断ろうとする

本物か偽物かわからないが、仮に偽物であっても相当な価値のある物

それを受け取るのはさすがに出来なかった


「受け取ってくれぬか? 想いを継ぐ者に受け取って欲しいのだ。 そなた達の未来にきっと役に立つ」

真剣に頼み込む光秀に横島と魔鈴は顔を見合わせる


「わかったよ、光秀。 受け取るよ」

魔鈴と見合わせた横島がそう告げると、再び刀が凄まじい光を放ち始めた


ピカー!!


そして光が収まると、刀の形そのものが変化している

日本刀なのは変わらないが新品のように輝いており、一番目立つのは鞘の色が綺麗なオレンジに変わっていること

まるであの日の夕日のような…


「刀も横島殿を持ち主と認めたようだ。 これで思い残すことは無い。 お別れだ… 横島殿、魔鈴殿、本当にありがとう。 そなた達と共に戦えたこと誇りに思っておる」

「光秀… ありがとう」

「さようなら光秀様。 もう一度会えてよかったです」


横島と魔鈴は目に涙を溜めながら、光秀が消えてゆくのを見守っていく


「さらばだ…」

そして光秀は最後まで満足そうな笑みを浮かべたまま消えて行った



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