その二

「たいして面白い話じゃないぞ」

微妙に照れたような苦笑いを浮かべた横島は、コップに残る酒を飲み干す


「それはこっちで判断するわっ!」

愛子と加奈は目を輝かせて、横島をせかすような視線を送る


「あれは数ヶ月前の夜だったな。 俺は夜中に近所のコンビニに買い物に行った時、偶然めぐみに会ったんだ」

横島は昔を懐かしむような表情でゆっくり語り出す

「その時めぐみは、知り合いに頼まれた除霊してたらしくてな… でも、ちょっとした手違いで怪我をして動けないで居たんだ。 そんなとこを見ちまった俺が、めぐみを連れてその場から逃げたんだよ。 その後はいろいろ話してる内に仲良くなっちまってな~」

懐かしそうに語る横島

この話の元は未来で魔鈴と近付くキッカケになった事実である

どうやら未来での事実を嘘を交えて語ることで誤魔化すつもりらしい


「ふーん、前の横島君がね~」

愛子は微妙に半信半疑なようで首を傾げる

前の横島が女性と仲良くなるのが不思議らしい


「まあ、困った女性をほっとけないのは横島君らしいわね。」

加奈はクスクス笑っている

横島が魔鈴を連れて逃げる姿を想像したようだ


「当時めぐみはイギリスに留学してたんだ。 だからその時は少ししたらイギリスに行ってしまったけど、俺がGS試験を受けるのを教えたら留学を早めて帰国してきたんだ。 一緒に仕事したいからってな」

微妙な顔の赤い横島は、照れを隠すようにコップに酒を継ぎ飲む


「そんなことがあったのですか… 知りませんでしたよ」

驚いた様子のピートだが、横島の話を信じたようで納得した表情である


「ねえ、なんで隠してたの?」

加奈は少し疑問があるのか探るように横島を見つめていた


「お前ら… あの時俺の言うこと信じたか? お前らも美神さんも俺の幸せを笑いものにするだろ」

愛子や加奈に責めるような視線を向ける横島

彼にとっては10年以上過去の出来事だが、昔の高校時代の記憶は未だにトラウマになっていた

毎日散々馬鹿にされ、差出人不明のチョコを貰えば騒いで吊し上げにする


そんな青春を送って嬉しかったはずはない

幸い魔鈴の愛情により現在は昔のような極度の自己不信は無くなったが

それでも、自分を過小評価する癖は未だに抜けていないのだから…


「えっ…!?」

横島の言葉と視線に2人は少し考えて視線を逸らす


「確かに、前の横島君だと信じれないかも…」

苦笑いを浮かべて誤魔化す愛子

最近はすっかり変わったが、横島が変わった当初は天変地異のような扱いをしていたのを思い出す


「それ見ろ。 俺はともかく、めぐみに嫌な思いさせるわけにいかないだろ」

2人を微妙に責める言い方をする横島だが、内心は上手く誤魔化せてホッとしていた


「アハハッ でも、あの時の横島君がこんなに人気者になるなんて、誰も想像してなかったわよ」

加奈は開き直って笑っている


「そうよね~ 今じゃ横島君の隠し撮り写真がピート君より高値で売れるもんね~」

「バカっ! それは内緒でしょ!?」

酔いのせいか、つい口を滑らせた愛子を加奈は慌てて黙らせるが…

もう遅いようだ


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