幻の初恋

一方、横島は考え事をしながら山道を歩いていた


「美神さん怒ってるかな~ 一週間も音信不通だし… でも妙神山に連絡手段なんて無かったしな」

2人の小竜姫との夢のような生活の余韻に浸りながら、現実を思い出すとため息が出る


「妙神山に戻ろうかな~ でも学校行かなきゃお袋に殺されるしな…」

横島は街に戻りたくないのか、足取りが重い


それはそうだろう

危険な事も無く、美味しいご飯が食べられる

その上、美人の小竜姫と一緒なのだから、横島にとってあれ以上の幸せは無いだろう

かつて美人の嫁さんを手に入れて、退廃的な生活をしたいと言っていた横島にとっては

この一週間は、本当にそんな理想の生活だった


「しかし…、あの小竜姫様があんなに甘えん坊だったとはな~」

横島は2人の小竜姫を思い出し、感慨深げに呟く


「と言うか… 小竜姫様とキスをしてしまったんじゃー!!」

横島は興奮気味に叫び声をあげる


誰もいない山道だからいいものの

落ち込んだり喜んだり叫んだり、コロコロと表情を変えて歩く横島は明らかに変である


そんな調子で横島は歩いていく



その頃小竜姫は…


横島のアパートに勝手に入っていた


「確かこの部屋ですよね」

小竜姫はかつて月に行く前に、一度だけ見た部屋に来ていた


「………間違いなく横島さんの部屋ですね」

散らかり放題の部屋に、散乱するエロ本

それを見た小竜姫は、若干額をピクつかせながら横島の部屋だと確信する

「まずは掃除ですね…」

アパートと妙神山を繋げて帰るつもりだったが、あまりの酷い部屋に小竜姫は掃除を始める


生真面目な小竜姫は、こんな部屋を放置しておけないのだ


「全く、横島さんはどういう生活をしてるんでしょうか?」

言葉は呆れたように呟くが、小竜姫は楽しそうに笑顔である


なんだかんだいいつつ、横島の部屋を片付けるのが楽しいようだ

頭の中では最近テレビで見た

『通い妻』

『恋人の部屋を掃除する彼女』

と言う、どっかのドラマのワンシーンを思い出していた

そうしてご機嫌に部屋を片付けていくが、突然手が止まる


「全くもう…」

小竜姫は目の前にあるエロ本を見て、ため息をつく

「まあ、横島さんですし、ある程度は覚悟してますが… こんな本を見るのは嫌ですね… 捨てましょう」

小竜姫としては、横島の煩悩や性欲は理解している

だが、他人の裸を見て楽しむのは納得がいかない

小竜姫はテキパキとエロ本を集めて、ゴミに出してしまう


この時

小竜姫の頭の中からは、横島と自分がまだ恋人で無いという事実は完全に消えていた



「小竜姫ったら本当に楽しそうなのねー」

小竜姫を焚き付けた張本人は、横島の部屋を掃除する姿を楽しそうに覗いている


「あやつ、目的を忘れとらんか? 勝手に掃除を始めるとは… 堅物な分、融通が効かんの~」

老師は少し苦笑いしていたが、ヒャクメと一緒に覗いている

老師も心配半分、楽しみ半分なようだ


「これは面白いことになるのねー! ワルキューレ達も呼ぶのね!」

ヒャクメはニヤニヤしながら、魔界に連絡をする


小竜姫が横島に夢中になっている間に、話はどんどん広まっていく


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