幻の初恋

その少し前、事務所を後にした令子はこれからどうするか悩んでいた


「横島君を小竜姫様から取り返すって言っても、どうすりゃいいのよ…」

愚痴をこぼしながら腕組みして歩くその姿は、哀愁さえ漂いそうな様子である

下手に横島に手を出せば貧乏神がやってくるし、何もしなければ……


「イヤー!! イヤなのよ!! 貧乏神も再教育もイヤなのよーー」

突然街中で大声を出し絶叫しながら頭を抱える令子に、付近の人々は見ないように視線を逸らし避けて行く


「ママー、あのおばちゃんなんで叫んでるの?」

3才くらいだろうか、令子を見ながら不思議そうに母親の服を引っ張る


「美枝ちゃん見ちゃダメよ」

母親は子供を抱きしめて、令子から離れるように逃げていく


昼間っから露出度の高い派手な服を来た女が、意味不明な奇声をあげているのだ

ちょっと賢い人なら間違っても近寄らないだろう


「誰か助けてー!!」

黒の恐怖と貧乏の恐怖の板挟みの令子は、最早周りから可哀想な人を見る目で見られてることすら気が付かないで、頭を抱えて絶叫を続ける
 
そんな中、令子に声をかける強者が現れた!

「ちょっと君、どうしたんだね? 名前は?」

付近を巡回中の警察官が嫌そうな顔を隠しつつ、令子に職務質問をしたようだ


「はっ…!? 何か用でもあんの? 私は何にもしてないわよ!」

周りが見えなかった令子が、突然声をかけられて気が付くと警察官なのだ

微妙に引きつった表情で、後ろめたいことを誤魔化すようにする令子に警察官は疑うように見つめる


「とりあえず名前を教えて下さい。 ご職業は?」

警察官はどうやら令子を薬中毒の水商売だとでも思ったようだ


「私はGSよ! これ以上疑うんなら訴えるわよ! 任意には協力もしないわ!」

令子はGS免許を見せて警察官に怒りをぶつける


「とりあえず、事実確認するから交番まで来て下さい。 路上で奇声を発する変な女性がいると苦情が来てるんですよ」

警察官は令子の怒りを素知らぬふりをして淡々と語る

どうやら付近を巡回中の警察官に、令子を見た誰かが危ない人が居ると教えたらしい


「クッ…」

令子はあまりの屈辱と恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら交番に行くことになる


(なんで私がこんな運命なの!! くされ神め!)

まるで横島のような神を呪う令子だが…


『それ以上神を冒涜するなら、貧乏神と疫病神の団体を送りますよ♪』

またいつぞやの謎の声が令子の頭に響く


「べっ… 別に冒涜はしてないわよ」

冷や汗を流し焦った様子で言い訳する令子は、またもや考えてることが口に出ていた


『嘘をついても無駄ですよ~ 次はありませんからね?』

謎の声は楽しそうな様子で令子に警告をして終わる


「私に味方は居ないのー!!」

瞳に涙を溜めて絶叫する令子は、目の前に警察官が居ることは忘れていたようだ


「君、本当に大丈夫かね? 病院に行くかね?」

まるで可哀想な人を見るように哀れんだ視線を向ける警察官に、令子は顔を真っ赤にしてうつむいてしまう


結局、交番で身分を確認して薬物検査までさせられた令子が解放されたのは1時間後であった


「は…、ヒドい目にあったわ」

ガックリした様子でとぼとぼ歩く令子は、とりあえず近くの商店街に向かう


「あれは…?」

その時令子は、吸血鬼の能力で霧と化したピートを発見する


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