幻の初恋

おキヌは人工幽霊の問いかけにニッコリと漆黒の笑みを浮かべ、ゆっくり立ち上がり台所に向かう

「爬虫類の親戚なんかに負けるなんて… 美神さんには気合いを入れてあげないとダメですね」

おキヌが手にしたのは、元妖刀シメサバ丸

シメサバ丸はおキヌが手に持つと、おキヌの漆黒のオーラに反応するように、ドス黒く光り輝く


シャー…

シャー…

シャー…

シャー…


おキヌは素晴らしいほどの黒い笑みを浮かべて、シメサバ丸を砥石で研いで行く


「晩ご飯何にしましょうかな♪ ウフフフフ……」

台所はおキヌの漆黒のオーラで暗黒の世界と化していた


(私はどうすれば…… 何故私がこんな目に……)

逃げ出したくても逃げれない人工幽霊は、台所を意識的に見ないようにしてガタガタ震えているようである


その頃横島と小竜姫は、アパートに戻る前に夕食の買い物に来ていた


「そう言えば、一週間休んだ事美神さんに説明したっけ?」

横島は無くした記憶を思い出そうとするが…


「ええ、心よく理解してくれましたよ」

小竜姫はあまり思い出してほしくないのか、笑顔で横島の思考を止めた


「えっ…!? あの美神さんが、殴ることも蹴ることもなく許してくれるとは……」

横島は令子が笑顔で許した所を想像すると、有り得ない恐怖で震えてしまう


「大丈夫ですよ。 これからは美神さんが虐待しようとしたら、私の名前を出して下さいね」

小竜姫は笑顔で横島に言い聞かせ、夕食は何がいいか考えてゆく


「うーん… 何か引っかかるが、気にしたら危険な気がする」

横島は違和感を感じたが、本能からくる危機感に従い気にするのを止める


「横島さん、今晩は何が食べたいですか?」

小竜姫は嬉しそうに横島の腕にしがみつく

最大のライバルである令子に勝利した小竜姫は、本当に機嫌が良かった


「しょっ…小竜姫さま!?」

人前で腕にしがみつく小竜姫に横島は驚き対応ができない

元々迫ることはあったが、迫られる経験の少ない横島はどうすればいいかわからないのだ


「横島さん。 嬉しくないですか?」

少し不安げに横島を見上げる小竜姫

どうやら彼女は最近よく見ている人界のテレビで、男女の付き合いを勉強したようだ


「うっ!! 嬉しいっす! もう最高であります!!」

横島はピシッとして小竜姫に返事する


「良かった… じゃあ買い物しましょうね♪」

横島を引っ張るように歩く小竜姫


2人が居るのはスーパーの中である

周りの主婦達の好奇心の視線を集め、横島と小竜姫はここでも目立っていた


「いいわね~ 若いって」

羨ましそうに呟く主婦

まさか小竜姫が自分達より遥かに年上だとは知るはずも無い



買い物を終えると横島は、食料の入った袋を自分が全部持ち歩き出す

小竜姫は半分持とうしたのだが、横島に先に持たれていた


元々嫌でも荷物を持たされていた横島には、このくらいは普通のことだが…、神族の小竜姫にとってその行動はとても新鮮だった

自分を気遣う自然な優しさに、小竜姫は心が高鳴るほど喜びを感じる


(やっぱり、横島さんがあの時の人なんですね…)

小竜姫は遥か遠い記憶の中の横島を思い出し、自然に笑みがこぼれた


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