その一

そして日曜になると横島とかおりは先週風邪で行けなかった横島が調べたデートスポットに行く日となる。


「よくよく考えると本当のデートみたいっすね。」

事の発端は横島が少し裏通りのコジャレた喫茶店を知っていたことから始まり、それをかおりと行こうと雑誌で調べたんだと証明する為にという理由なのだが。

先週の風邪の件もあり少し間が空いた為か、勢いで約束はしたが証明するだけなら雑誌を見せれば済むのだと横島も流石に気付いてはいた。

ただかおりが来てくれる以上わざわざ自分から会う理由を消したいはずもなく、約束は約束だからと会っている。


「一つ疑問なのですが、そもそもデートの定義は何処からだと思うんですの?」

この日はお互いに周囲にバレたことから下手に学校から遠い駅で待ち合わせする必要がなくなったので、いつもと違いお互いの家から一番近い駅での待ち合わせをして少し遠出ということで電車で横浜に向かっていた。

電車に揺られながら行き先を話し合う二人だが、ふと横島が周囲の生暖かい視線に気付いたからか本当のデートみたいだと余計なことを口にするとかおりは以前から少し気になっていた横島のデートの価値観を尋ねる。

根本的に自分の気持ちを自覚するかおりとしてはこれがデートでなくて何がデートなのか純粋に不思議だったのだ。


「デートの定義っすか? 恋人ならそれでデートじゃないんっすか?」

「そういう認識なのですか。 では付き合う前の男女は全てデートではないと?」

「うん? それは……。」

ただ横島としては特にデートや恋人の定義やラインがある訳ではなく、自分はかおりに男として見られてないと考えているからこそデートみたいだと口にしたに過ぎない。

そこにあるのは鈍感とかではなくただ自分に自信がないだけなのだが、かおりとしてはあまり気持ちがいい発言ではないし横島の心情はなんとなく理解はするものの、もっとプライドや自信を持って欲しいとは最近特に思っている。

正直かおりとしては何故そこまで自信を持てないのか理解出来ないのが本音だろう。


「それではせっかくですから、今日はきちんとエスコートして下さい。」

まああまり深く追求してもそれで突然性格が変わるわけでも問題が解決する訳でもないので、かおりとしては一つ一つ距離を縮め事実を積み上げるつもりだった。

ぶっちゃけ普通の男ならばもう告白の一つや二つしてきてもいい頃だが、横島にそれを期待するのは無理なのは悟っている。

女好きで軟派な性格ではあるが、距離が近くなると逆に何も出来なくなるというどうしようもない性格であることはすでにお見通しなのだ。

おキヌと小鳩に令子も怪しいとなると普通は誰かと親密になるはずが、みんなと等しく友達以上恋人未満で止まってる横島に積極性を期待するのはすでに諦めていた。


「そう、そうっすね。」

一方横島はエスコートと言われるとやはり意識してしまうようで、明らかに緊張が表情に現れている。

ただ差し伸べられた手が嫌なはずもなくドキドキしながら握ると、ちょうど到着した駅で降りることになる。

ちなみに人前でいちゃつくようにしか見えない横島とかおりに砂糖を吐いたり呪詛を呟く人が居たが、まあ横島とかおりが一緒に居ると最近よくあることだった。


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