その一

「そう言えばあれからどうなりまして?」

すっかり放課後のバイト感覚になった除霊だが、横島とかおりは終わるとそのまま街をぶらつくのが流れになりつつあった。

そろそろ十二月も半ばに入る頃である街はクリスマス一色であり、楽しげな雰囲気は見ているだけで心がウキウキしそうである。

不思議と人恋しくなる季節であり横島は例年ならば街行くカップルを妬んでいたが、流石に今年はそれほどではないらしい。


「ああ、あいつらあれからずっと聖人君子ってみんなに呼ばれてネタにされてますよ。 俺は女子達に弓さんのこと質問攻めにされてるくらいっすかね。 あとあの時見ていた人が居たみたいで弓さんのこと格好いいって絶賛してましたよ。」

「女子は何処も似たようなものです。 あの人達が少しは身の程を弁えるようになったのなら良かったですわ。」

途中かおりがちょっと雑貨が見たいからと雑貨屋に入ったりしながら二人は先日の件のその後の話をしていたが、かおりはあの件で自分の評価が上がったことは少し意外だったらしく驚いていたが他は概ね満足いく結末だったようだ。

別にかおりはネタとして聖人君子などと持ち出した訳ではないが、皮肉なことにそれで横島と彼らの立場が逆転したならばそれはそれで構わないと思うようである。

横島としてはあれ以降もクリスマスにはどうするのかなど女子に絡まれることが増えたので少々困った様子ではあるが、同じ女のかおりからすると女子とはそんなものだという認識な上にかおり自身もクラスではいろいろ聞かれるので似たようなものだった。


「それにしても人ってのはいい加減なもんっすね。 ちょっと前まであれだけ俺のこと馬鹿にしたようなネタで騒いでいたのに、今は騒いでいた連中がその立場なんですから。 しかも弓さんがちょっと俺のこと庇っただけで周りはみんな恋人だなんて決めつけてますから。」

結果的に横島は学校での立場が変化したが、横島自身はそれに関してあまり喜ぶ様子もなく人間のいい加減さに少し呆れたような感じである。

まあ吊し上げにされなくなったことは嬉しいが、かといってクラスメートと一緒に今度はあの連中を吊し上げにする気はなく内心では何処か冷めた目でクラスメートを見ているがそれをかおりには自然に話してしまうようになっていた。

そもそも基本お人好しな横島だが根底には根深い自己不信と人間不信があり、同じお人好しでも根底からお人好しなおキヌとはまた違うものがあるのだ。


「すんませんね。 なんか愚痴みたいになって。」

「構いませんわ。 正直私も似たようなことを考える時はありますから。 特に私の家は寺ですから、人の嫌な面や勝手な面など時々見るんですわ。 中には家が寺だからと言うだけで坊主丸儲けのように思われることもよくありますし。」

その後横島とかおりは互いの不満を愚痴るような会話を続けていくが、横島ですら知らなかった歴史ある寺のお嬢様だと思っていたかおりの実情に驚くことになる。

特にかおりが不満なのは家が寺で除霊もしてるとなれば金持ちの億万長者と誤解されることらしい。

実際歴史はあるので闘竜寺の寺はそれなりに立派だが、その分維持管理だけでも大変な上に除霊も別にGSという訳ではなく寺の仕事の延長なので儲けなんてほとんどないので実際は生活はさほど裕福ではないと聞くと何とも言えなくなる。

ただまあお互いに内に抱えるものを少しは吐き出して、多少なりとも楽になれるのは決して悪いことではなかった。

それはお互いに気心許せる関係である証でもあるし、一つ一つ相手を知ることは二人にとって必要なことでもある。

結局この日はそのまま街をぶらぶらしながら、とりとめのない会話を楽しむことになった。




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