その一

そんな映画を見終わると二人は映画の余韻に浸りながらゆっくりとするために近くのコーヒーショップに入っていた。


「そう言えば後ろの二人組に睨まれたんっすけど、見にくかったんですかね?」

「さあ、そんなはずはないと思うのですが。」

映画自体はラブロマンス物でハッピーエンドだったので見終わった後の余韻はいいのだが、横島とかおりは帰り際に後ろの席に座っていた三十路の女の二人組に軽く睨まれたことに首をかしげている。

映画館の造り的にも見にくいほどではないし騒いだ訳でもない二人は、何故睨まれたか本当に分からないらしい。


「あー!!」

その後横島とかおりはあまり興味のない三十路の女のことから映画の話題に戻るが、道路側から見える席に座った為か横島の存在に気付いた通りがかりの学生数人が大声で指を指すとそのまま店内までずかずかと入って来てしまう。


「横島! 貴様また証拠にもなく六道女学院の女子を騙して!」

「貴様に正義の鉄槌を!」

その光景は少し異様だったようで夕方で混み合う店内で横島とかおりと学生数人は好奇な視線を集めるが、学生数人は気付いてないのか気にしてないのか再び大声で横島の名前を口にすると堂々と非難し始める。


「どちら様ですの?」

「一応クラスメートかな。」

横島は相手にするのが嫌なのか他人の振りをしようとするも明らかに名指しで指までさされてはそれも不可能であり、あまりに突然のことに驚きながらも横島に学生達の素性を尋ねたかおりはその正体に表情がこわばった。

学生達は横島のクラスメートの中でも横島のつるし上げの中心人物であり、彼らは以前かおりが横島に公衆の面前で激怒した話などを用いて横島の悪行をあることないこと言い始める。

ついでに言えばアシュタロス戦の折に学校にあった横島の机や私物に落書きしたりしたのも彼らであった。


「それで、私達に何かご用ですか?」

この時横島は流石にかおりに迷惑がかかると一人店を出ようとするが、立ち上がろうとした横島を止めたのは能面のような笑顔を浮かべたかおりである。


「貴女は騙されてるんだ!」

「一つ訂正しておきますが、以前街中でけんかをした六道女学院の女子とは私のことですわ。 ですが理由は些細なことで直ぐに仲直りしてますが、誰が誰を騙したと?」

その笑顔に横島はかおりが怒り心頭なのを悟りなんとかしようとするも、彼女は横島を止めてゆっくりと学生達に変わらぬ笑顔のまま説明を始めた。

その笑顔の迫力に横島をつるし上げにすることしか出来ない男子達はどうすることも出来ない。

彼らは横島と違って元々好きでも嫌いでもないと女子からは相手にすらされてないので、かおりのようなプライドが高い女子を相手にしたことなんかあるはずがなかった。


「貴殿方には理解出来ないかもしれませんが、男と女は深い付き合いをしていればケンカの一つや二つしますわ。 それを本気にして目くじらを立てるなどみっともない。 恥ずかしくありませんの?」

一方元々プライドが高いかおりは、ある意味目の前に居るような陰湿な連中を相手にするのは得意なのかもしれない。

学生達もまさかかおりが反論してくると思わず言葉が出ないし、横島ですらも突然のことにクラスメート達と同じく戸惑っていたが。


「いや、こいつは馬鹿でスケベでどうしようも……。」

「では横島さんは学生ながら日本で最難関の国家資格であるGS免許を持ってますが、貴方には何かそれに勝る取り柄がありますの? それとスケベとも言いましたわね。 貴方それを人に対して言えるほど聖人君子なのですか?」

横島にとっては正直クラスメートの行動は日常茶飯事なので面倒でもあまり気にしてないが、プライドが高いかおりは正直不愉快でしかなくかなりぶちギレていた。

原因の一端が自分にあるという罪悪感もあり、ここは徹底的に反論して目の前の馬鹿どもを潰してしまおうとすら思っている。


「いや、その……。」

「そういうことはせめて彼女の一人でも作ってからおっしゃって下さい。 ああ、貴殿方は性欲がない聖人君子でしたわね。 なら一生独身でその身を御仏に捧げてみてはいかがかしら? 良ければ海外のいい寺を紹介しますわよ。」

一言口を開けば十の反論が来るとまでは言わないが情け容赦ないかおりの言葉に横島のクラスメート達は叱られた子供のように冷や汗を流して俯くしか出来ない。


「それでは私達はこれで。」

結局かおりはそこまで言うかと周りや横島が思うほど徹底的に反論すると、横島の腕を絡ませるように見せつけながら店を出て行った。
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