その一

それから数日過ぎた週の半ばになると、横島達はまた令子の仲介で除霊をすることになっていた。

今回の依頼も三十万程度の簡単な依頼だが学生には十分な依頼の上、さほど苦戦する依頼でもないので楽勝だった。

しかも基本的に消耗品の道具は要らないメンバーなので経費は移動の電車賃くらいなので丸儲けである。


「これって週一くらいでこのランクの仕事しとけば、下手に依頼料が高くて危ない依頼やる必要ないんじゃあ?」

「ところが実力があやふやな無名のGSには楽な依頼も入らないんですわ。 誰だってヤブ医者より名医がいいでしょう? 例えただの風邪でも。」

除霊はあっさりと終わり横島達は今回も帰り際に適当なファーストフードでお茶をするが、あまりに簡単に稼げる現状に横島はもう危ない依頼はやる必要がないのではと考え始めていたことを口に出してしまう。

実は横島ばかりではなくタイガーも魔理もおキヌまでも口には出さないが無理に危険度が高い依頼をやる必要性がないかもと思い始めているが、それをあっさりと否定したのはかおりである。


「GS協会に行けば協会で仲介する受け手を探してる霊障案件がありますが、意外に一癖も二癖もある依頼が多いと言われてますから。 あと私達は最初の依頼以外は除霊しかしてませんが、顧客との交渉と依頼料の回収も結構大変です。 除霊した途端に難癖を付けられて支払い拒否されたとか逃げられたなんて話もまあよく聞きますから。」

横島とタイガーはそれなりにGSの除霊外の苦労は知ってはいるが、オカルト業界に関わりがない魔理と幽霊だった過去から若干世間知らずなおキヌは除霊外の苦労をほとんど知らない。

確かに手頃な依頼をこなしていけば楽だしいいのだがその手頃な依頼を獲得するのがまた簡単ではないし、加えて交渉から料金回収まで全部自分で行うGSは除霊外の仕事の方が苦戦する者が多いなんて話もある。


「やっぱ楽は出来ないってことか。」

「まあ外注する方法もあるにはありますが。 調査や依頼料回収の専門業者も居ますし。 ただ人を挟めば挟むほど利益は減ります。 横島さんは基本経費がかからない人なのでそれでもいいんでしょうが、一般的なGSだとお札なんか使えば正直さほど利益は出ないのが普通ですわ。」

現状はあくまでも横島達の修行が目的というか建前なので小遣い稼ぎや生活費稼ぎは二の次なのだ。

横島なんかは令子の気まぐれで多少はピンハネして儲けてるんだろうなと失礼なことを考えているが、ただ除霊するだけで貰う金額にしては多すぎるのでかおりは令子が自分達というかこの件の発案者であるおキヌには少なからず甘いと思ってもいる。


「美神お姉さまや小笠原エミさんのクラスになると楽な仕事だけ選んでも生きていけるのでしょうけど。 ただ一般論から言えば修行名目とはいえこれほど簡単で割のいい依頼はなかなか回してくれませんわよ。」

正直かおりとしては些か便宜を図られ過ぎて少々後が怖いと思わなくもない。

令子ならば断るようなランクの依頼なのは理解するが、それでも一般論から言って弟子扱いの横島とおキヌではない自分が受けれる便宜ではないのだ。

他人の弟子に口出ししないのが暗黙のルールであるオカルト業界では、令子の便宜は将来的な引き抜きの伏線ではないかと邪推されてもおかしくはない少々グレーな行為になる。

まあエミは令子をよく知るのでタイガーの引き抜きなんてないと理解してるので気にしてないが。

加えて令子は世界最高ランクのGSで日本のオカルト業界を牛耳る六道一派の門弟でもあるので、この程度のグレーゾーンの行動に文句をつける者は居ないが。

ちなみに弓家で母が外での修行に賛成なので父を完全に押さえていた。

闘竜寺での修行だけで世の中を生きていけると母は思わないらしく社会勉強にもなるからと、かおり自身より積極的に横島達との除霊参加を勧めた経緯がある。

それとタイミング的には偶然だがかおりは妙神山に行って以降若干ではあるが、霊力の使い方や実力を上げてしまったので父は余計に反対出来なくなっているが。


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