その一
「どうかしたのかね、美神君。」
同じ日令子はふらりと唐巣の教会に来ていた。
本人は仕事上がりに寄っただけだと言うが、唐巣はなんとなく何かあったのかと感じたらしく声をかける。
「別に何にも……。」
「君の性格は公彦君似だね。 容姿は美智恵君に似てるのに。 公彦君もよくそうやって言葉を飲み込んでいたよ。 それに比べて若い頃の美智恵君は言葉に出す前に行動をしてしまうタイプでね。 まあ今も似たようなものだが。」
令子自身は別に悩みや愚痴があるつもりはなく、ただ事務所に戻っても一人で暇なので寄ったに過ぎない。
だが唐巣にはその心に秘めた何かが見えてるようでもある。
「考えてばかり居ないで全てをぶちまけたらどうだ? 周りの人達はみんな受け止めてくれるはずだよ。」
「先生は何で結婚しなかったの? 全く機会がなかった訳じゃないのに。」
一方の令子は突然両親のことを言われて少し不機嫌そうにするも、以前から気になっていたことを逆に尋ねていた。
今でこそ女っけのカケラもない唐巣だが、若い頃は結構モテたと令子は噂で聞いたことがある。
それに人格者で人柄もよく実力もある唐巣にはお見合いをとの話も多かったらしく、特に冥子の母などが以前はしきりにお見合いの話を持ち込んでは断っていたらしい。
金銭感覚はともかく生活力の無さを補う伴侶が必要であり唐巣の子を後世に残すべきと考えてのお見合いであったが、唐巣はどんな相手でも会わずに断っていたのは有名だった。
「何故なんだろうね。 実は自分でもよくわからないんだよ。」
別に生涯独身で神に仕えるつもりがあった訳ではないと唐巣は語り、目の前の現実を生き抜いていたらこの年になってしまったという方が適切なのだろう。
令子の母美智恵に少し惹かれていたという自覚はあるし、全く女性に興味がない訳ではない。
「横島君と先生を足して割ればちょうどいい気がするわ。」
「アハハ、それは面白いな。 正直ね私は横島君が羨ましくなる時があるよ。 彼のように生きられたらと思わなくもない。」
生ける聖人などと言われることがある唐巣と良くも悪くも自由に生きて犯罪者予備軍とまで言われたことがある横島はまるで水と油のごとく生き方が違うが、令子は常々極端な二人だと思い足して割ればちょうどいいのにと何度も思ったらしい。
だが唐巣はそんな横島が羨ましくなると打ち明け令子を驚かせる。
端から見ると信念があるように見える唐巣からまさかそんなことを聞くとは思わなかったのだろう。
「美神君も同じだろう?」
「そうかもしれないわね。 私や先生にはない強さと自由がある。 でも……。」
羨ましくなるという言葉は今の令子に最も適切な言葉かもしれない。
エネルギッシュで行動的でもある横島は、掴まえていないと何処かに飛んでいってしまいそうなそんな印象が令子の心の何処かにあったのだろう。
それ故に令子は無意識ながらに横島を束縛し掴まえていたが、ふと横島の胸に迷い込んだ一匹の蛍が横島を解き放ってしまったのだと。
解き放たれた横島は時々羽根を休めに戻りはするが、それは令子が望んだようであり望んでなかった形だ。
唐巣が令子の何を何処まで見えてるかは不明だが、あまりに不器用な令子にかける言葉が浮かばなかった。
同じ日令子はふらりと唐巣の教会に来ていた。
本人は仕事上がりに寄っただけだと言うが、唐巣はなんとなく何かあったのかと感じたらしく声をかける。
「別に何にも……。」
「君の性格は公彦君似だね。 容姿は美智恵君に似てるのに。 公彦君もよくそうやって言葉を飲み込んでいたよ。 それに比べて若い頃の美智恵君は言葉に出す前に行動をしてしまうタイプでね。 まあ今も似たようなものだが。」
令子自身は別に悩みや愚痴があるつもりはなく、ただ事務所に戻っても一人で暇なので寄ったに過ぎない。
だが唐巣にはその心に秘めた何かが見えてるようでもある。
「考えてばかり居ないで全てをぶちまけたらどうだ? 周りの人達はみんな受け止めてくれるはずだよ。」
「先生は何で結婚しなかったの? 全く機会がなかった訳じゃないのに。」
一方の令子は突然両親のことを言われて少し不機嫌そうにするも、以前から気になっていたことを逆に尋ねていた。
今でこそ女っけのカケラもない唐巣だが、若い頃は結構モテたと令子は噂で聞いたことがある。
それに人格者で人柄もよく実力もある唐巣にはお見合いをとの話も多かったらしく、特に冥子の母などが以前はしきりにお見合いの話を持ち込んでは断っていたらしい。
金銭感覚はともかく生活力の無さを補う伴侶が必要であり唐巣の子を後世に残すべきと考えてのお見合いであったが、唐巣はどんな相手でも会わずに断っていたのは有名だった。
「何故なんだろうね。 実は自分でもよくわからないんだよ。」
別に生涯独身で神に仕えるつもりがあった訳ではないと唐巣は語り、目の前の現実を生き抜いていたらこの年になってしまったという方が適切なのだろう。
令子の母美智恵に少し惹かれていたという自覚はあるし、全く女性に興味がない訳ではない。
「横島君と先生を足して割ればちょうどいい気がするわ。」
「アハハ、それは面白いな。 正直ね私は横島君が羨ましくなる時があるよ。 彼のように生きられたらと思わなくもない。」
生ける聖人などと言われることがある唐巣と良くも悪くも自由に生きて犯罪者予備軍とまで言われたことがある横島はまるで水と油のごとく生き方が違うが、令子は常々極端な二人だと思い足して割ればちょうどいいのにと何度も思ったらしい。
だが唐巣はそんな横島が羨ましくなると打ち明け令子を驚かせる。
端から見ると信念があるように見える唐巣からまさかそんなことを聞くとは思わなかったのだろう。
「美神君も同じだろう?」
「そうかもしれないわね。 私や先生にはない強さと自由がある。 でも……。」
羨ましくなるという言葉は今の令子に最も適切な言葉かもしれない。
エネルギッシュで行動的でもある横島は、掴まえていないと何処かに飛んでいってしまいそうなそんな印象が令子の心の何処かにあったのだろう。
それ故に令子は無意識ながらに横島を束縛し掴まえていたが、ふと横島の胸に迷い込んだ一匹の蛍が横島を解き放ってしまったのだと。
解き放たれた横島は時々羽根を休めに戻りはするが、それは令子が望んだようであり望んでなかった形だ。
唐巣が令子の何を何処まで見えてるかは不明だが、あまりに不器用な令子にかける言葉が浮かばなかった。