その一

さて翌日の横島はそのまま体調が順調に回復して風邪も治り始めていた。

ただこの日は元々かおりと約束していたこともあり予定もないので前日言われた通り寝て早く風邪を治すことに専念する。

午前中は小鳩が困ってないかと顔を出してくれたし午後には少し早く実家から戻ってきたおキヌも駆けつけてくれたので、暇過ぎるというほどでもなくこの日を過ごすことになる。


「一文字さん、先日はわざわざ電話ありがとうございました。」

「ああ、別にいいんだよ。 タイガーがちょっと心配してたからさ。 あの人意外に頑固で病院行ってないんじゃないかってね。」

そして月曜にはかおりが学校にて魔理に横島の件を知らせてくれたことへのお礼を言っていたが、魔理もおキヌも周囲のクラスメートもかおりが堂々と人前で魔理にお礼を言ったことに驚いていた。

決して仲が悪いわけではないが口喧嘩が絶えない二人である上にプライドが高いかおりが、そんな喧嘩友達とも言える魔理に堂々とお礼を言うなど今までにはあり得なかったことなのだ。

あまりのことに魔理も毒気を抜かれたように戸惑っていたが、彼女は彼女なりによく知らない横島はともかくおキヌとかおりのことは心配していたのだろう。


「そう言えば弓さん、最近他校の男子と歩いていたって聞くけど?」

だが実際かおりの些細な変化は今に始まったことではなく、特にここ最近は何かと機嫌がいいというかそわそわとして学校が終わると急いで帰る様子がクラスでは話題になっている。

加えてどうも横島と会っている姿を同じ六道女学院の生徒に見られたことが数回あるらしく、かおりに他校の彼氏が出来たと特に霊能科ではこれまた話題になっていた。

元々霊能科でも有数の実力とプライドの高さから有名だったかおりが、なんというか普通の公立の男子と付き合っていると噂になればクラスメートのみならずかおりを知る者が驚くのも無理はない。

幸か不幸か相手が以前騒がれた横島だとは知られてないらしいが、女子高なだけにこの手の噂の伝わるスピードは早いようである。


「ええ……、その、時々会ってはいますわ。」

「彼氏なの!?」

「いえまだお付き合いしてる訳では……。」

この日魔理にお礼を言ったのをきっかけに何人かの噂好きなクラスメートが、かおりに直接噂の真相を尋ねるとかおりは今までに見たことがないほど狼狽えてしまいクラスメートを更に驚愕させていた。


「あれ? 前に違うと人付き合っているんじゃなかったっけ?」

「その人とはとっくに別れました。」

「じゃあ新しい彼氏が出来るのも時間の問題なのね。」

かおりに彼氏が居たというのは雪之丞の時にも伝わっていて、その人と二股かと一瞬周囲がざわつくもかおりが即別れたと否定するとクラスメートはかおりが新しい彼氏に今までにはないほど熱を上げてることを悟る。

というかかおりがモテることを自慢したり彼氏が居ることを鼻にかけることはあっても、狼狽したり二股を即否定するほどのことは始めてなのだ。

結果としてかおりは彼氏に捨てられた女との印象を持たれることなく、逆にプライドが高いかおりが少女のようになるほど惚れた相手がいると噂されることになる。

それはかおりが狙った訳ではなくこれ以上横島のことを隠したり嘘をつくのが嫌だっただけであるが、かおりは自らの立場やプライドを守ることに成功していた。

まあかおり本人は中途半端な見栄から始まったプライドや立場などもうどうでもいいとすら思い始めていたが。


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