その一

「意地を張って熱出したかと思えば熱が下がって騒いで、ほんと子供みたいですわね。」

それから横島とかおりは特に横島が意識し始めたことで少し微妙な雰囲気になるも、かおりは努めて冷静に振る舞い着替え終わった横島を布団に寝かせるとまた出た洗濯物を洗うために二度目の洗濯機を回す。

そしてすぐに横島の熱を計ると平熱よりは高いが午前中よりは下がったことで素直にホッとしてもいた。


「明日は弓さんと約束してますし、今日中に必ず治しますから。」

「明日出歩ける訳ないでしょう。 ダメですわ。 約束はまた来週にでも。」

対する横島はかおりを意識しないようにとしてるようではあるが、現状の関係は大切にしたいので横島が調べていた穴場スポットに行く約束をしてる明日までには治すと言い切るもかおりは当然ながら明日はダメだと告げる。

なんというか端から見たら遠足の前日に熱を出した子供に見えてしまい思わず吹き出して笑ってしまうが、約束を守ろうとする気概だけは嬉しく感じる。

というか横島の部屋にはテーブルの上の目立つ場所に本当にデートスポットが書いた雑誌があって、かおりもそれは見ているので今更行く必要はないのだが横島もかおりもそこに触れることはなかった。


「そもそも霊能者は体が資本なんですよ。 きちんと治して下さい。」

そのまま布団に横になる横島の隣に座ったかおりは時折額を冷やすタオルを交換しながら見守っていくが、横島には言いたいことがいくつもある。


「面目ないっす。」

「無理して悪化しても今度は来てあげませんわよ。」

横島は令子や唐巣など体を大切にしないGSの系統に師事してるので知らないが、本来霊能者は己の体調管理は基本以前の問題としてきちんとしなければならないというのが鉄則だった。

しかも風邪を引いてるのに文珠などという霊力を消費する術を使おうとしたのだから、開いた口が塞がらないとはまさにこのことである。

加えて先程から横島は世話されるのが嬉しいような表情を時折見せていて、たまには風邪を引くのも悪くないなどと独り言のように呟いていたのもかおりは聞いてしまったのだから呆れるしかない。

まさかとは思うが看病して欲しくてわざと体調を悪化でもさせかねないと思ったのか、そこはきちんと釘を刺すが実際に悪化したら来てしまうだろうなとも思っていたが。


その後かおりは横島の夕食の支度に取り掛かっていた。

体調も熱もだいぶ良くなり食欲もあるようなので消化に良いものを中心にしたが、風邪にいい豚肉なども購入していたの栄養満点な料理になる。

実はかおりは料理に関しては、実家の闘竜寺にて住み込みの内弟子には母と一緒に食事を作ることも多いのでそれなりに自信があった。

ちなみに余談ではあるが闘竜寺では基本的には日々の食事は普通に肉も食べれば洋食なんかも食べている。

そもそも日本の仏教は宗派により戒律が違うが現代において厳しい戒律を頑なに守り続けてるところは意外に少なく、現実問題としてほとんどの寺では僧も肉を食べれば酒も飲むし結婚をして子供も作るのがまあ一般的になるのだ。

特に闘竜寺のように霊能技術を受け継ぐ場合は才能がある子が必要な為に明治以降は跡継ぎの子供を作ることが当然となっている。

実際かおりの父は娘に闘竜寺と弓式除霊術を継がせたいらしいが本来の仏教は子に寺を継がせるというよりは弟子に継がせるのが自然なので、母が語るように無理に娘に継がせる必要があるのかという意見も間違ってる訳ではない。

一般人の母からすると都合がいいところだけ戒律やら伝統と口にしてるようにしか思えなく、最近横島と会うようになってから修行時間が減ってる娘に対して母と父は娘の将来に対する意見の違いが鮮明になっていたが。



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