その一

「……なんか賑やかっすね。」

「起こしてしまいましたか、すいません。 体調はどうです?」

「だいぶ楽になりましたよ。 ごほごほ、弓さんのおかげっすね。」

それからしばらく三人は横島を起こさぬように話をしていたが、それでも一時間半ほど寝ると目を覚ましてしまう。

注射に薬と食事まできちんと取った横島はだいぶ体調が回復したらしく表情も穏やかである。


「私達、邪魔しちゃったかしら?」

一方愛子と小鳩は無防備にもみえるほどの素の表情を普通にかおりに見せる横島に、二人の関係が見た目以上に深まりつつあることを感じていた。

それはかつて横島が令子に見せたように互いに深い絆を感じるほどではないが、自分達とは違うのは明らかだった。


「って、愛子に小鳩ちゃん!? なんでうちに? まっまさか俺本当は不治の病とかで……。」

「ただの風邪ですわ。 それより水分を取らないと。」

そして目覚めたまま半分寝惚けてかおりと会話をしていた横島だが、部屋にいつの間にか愛子と小鳩が居ることに気付くと何故だと言わんばかりに驚いたばかりか、終いには自分はもうすぐお迎えがなどと口走るがかおりもそろそろ慣れてきたので聞き流して横島に水分を取らせる。

なんというか驚いたのは確かなのだろうが半分は照れ隠しなんだろうなとは三人とも気付いていた。

彼女達は伊達に横島の部屋にまで来た訳ではない。


「風邪ひいて美人に甲斐甲斐しく世話されてるなんてみんな知ったらビックリするわね。」

「あー、愛子余計なこというなよ! 弓さんに迷惑かかるだろうが!」

ただ愛子と小鳩が来たことで横島はいつもの調子で冗談を言うものの、愛子が横島とかおりをからかうような事を言うとかおりは少し顔を赤らめ横島から視線を外し横島は少しむきになり口止めをする。

横島としてはあくまでもかおりの迷惑になることを恐れているが、同時に下手に騒がれてまた会いにくくなるのも心の中では面白くないという感情もないわけではない。


「言わないわよ。 密かに隠れて会うって言うのも青春だもの。」

「誤解するなっちゅうの。 弓さんは優しいだけなんだから。」

「大丈夫よ。 わかってるわ。」

そのまま愛子は何故か横島とかおりをからかうような事を口にしていくが、不思議とかおりは否定することなく横島だけが否定している。

さすがに横島の本当の実情を知った今、愛子と小鳩に自分が否定したら戦いを放棄したと受け取られかねないので黙るしかなかった。

愛子はともかく小鳩は明らかに横島への好意があるので親しくはなったが、否定したら自分から身をひくと宣言するようなものなのだ。


「弓さんもなんとか言って下さいよ。」

「人にどう思われようが私は構いませんわ。 それを教えてくれたのは横島さんですわよ。」

「いや、でもさ。」

結局横島は愛子と小鳩に口止めしようとするも肝心のかおりが半ば開き直ってしまってはどうしようもなく、愛子なんかは意外に積極的ねとニヤニヤと見ていたりする。

かおりは努めて冷静に冷静にと心掛けて何処か赤みの抜けぬ顔で横島の世話をしていくしかなかった。




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