その一

「こう言うと誤解するかも知れないけど、他人を信用し過ぎるのは間違いなのかも。 相手に話すなら秘密をバラされてもいいって気持ちくらいの方がいいと思う」

正直横島ならばおキヌなら大丈夫だと、背中を押してくれるのかと思っていた。

しかし横島の言葉はそれと正反対である。


「仮定の話で悪いけど、おキヌちゃんに言うと美神さんにばれる可能性があるんだ。 美神さんもついうっかりなんてことがないとは言えないしさ」

秘密を出来るだけ広げたくないかおりに対し、横島は言いにくそうに仮定の話をするがそれは有り得ない話ではない。

何より横島は自分が一番信じられない人間だった。

自分が信じられない横島が、他人を本当に心から信じれるはずはない。


「……そうですわね。 嘘や秘密はいつかバレますわよね」

今の今まで横島は楽観的にしか見えないような態度だったし言動だった。

しかしかおりが今見てる横島はとても臆病で、どこか悲しみや冷たさを感じる横島である。


「まあそれを言うなら雪之丞から漏れる可能性もあるし、俺が漏らす可能性もある。 雪之丞が香港に行った理由も、秘密を守るには会わないことが一番だからだろうしな」

少しショックを受けるかおりに横島は戸惑いつつも語っていくが、それはやはり普段の横島からは想像も出来ない発言だった。


「中途半端に話すなら話さない方がいいし、話すなら開き直る方がいい気がする。 弓さんなら美人で優秀だから雪之丞と別れた話が広まっても、見る目がない男だったって話で済むと思うぞ。 なんなら新しい彼氏でも作っちゃえばモテる女ってイメージになるしな」

どうやらかおりは今まで話す相手をどう限定するかで悩んでいたらしいが、横島はそんなかおりの考えを否定する。


「本当に横島さんの言う通りですわね」

かおりは自分が中途半端に嘘をつく怖さを全く理解してないことに、ようやく気付いていた。

今まではそこまで考え無かったが、バレた時のリスクを考えると嘘がいかに危険なギャンブルかはすぐに理解出来る。


「除霊の件も一緒にもう一回考えてみなよ。 どのみち雪之丞と連絡取れるまでおキヌちゃんは除霊を先伸ばしにするだろうしな」

「あの……、よろしければ連絡先を教えて欲しいのですが。 私が学校や事務所に会いに行く訳にもいきませんし」

悩みの相談に来たかおりだが、最終的には新たな悩みに変わる結果になってしまう。

横島は時間をかけて考えるように勧めるが、かおりは帰る前に自分の連絡先を渡し横島の連絡先を聞くのを忘れない。

流石にもういつ来るか分からない横島を何時間も待つのは嫌だったようだ。


「まさか、弓さんの連絡先を聞けるなんて思わなかったよ。 このまま弓さんが俺に惚れて……」

「言っておきますが変な期待はしないで下さい。 今後も相談に乗って頂きたいだけですわ」

相談も終わり連絡先を交換する横島とかおりだが、よほど驚いたのか横島は目を見開いて喜び勝手な妄想を口走り始める。

しかしかおりとしては横島に異性としての魅力は全く感じてなく、ついうっかりと釘を刺してしまう。


「それは分かってますって。 しかしそこまではっきり言わんでも……」

あまりにもバッサリと切り捨てたかおりに、横島は多少苦笑いを浮かべてはいたが面白そうに笑っていた。

正直真剣に相談に乗ったのだから、ちょっとくらいは優しくして欲しいのだがかおりには言えるはずもない。


「えっと……」

ただかおり自身も本当はそこまで言うつもりは無かったりする。

助けてくれたお礼と相談に乗ってくれたお礼を言うはずが、つい本音が出てしまったのだ。

結局かおりはこの日もまともにお礼が言えぬままに分かれることになった。



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