その一

その後やることがないかおりはしばらく部屋を眺めていたが、ここまでしたのだから洗濯でもしてあげようかと思い立ち先程脱がした服や他にもある汚れ物を集め始める。

一瞬何故自分がこんなことをと思いもするが寝込む横島が着替えに困るかと考えると可哀想であるし、ふと今の自分はまるで通い妻のようではと考えてしまうと顔が火照るのを感じ悪い気はしなかった。

横島の部屋は物干しなどないので洗った服は室内干しであり、横島はどうもそれを仕舞うことなくそこから着替えてるようである。


「ほんと、普通の男の人ってこんな感じなのね。」

洗濯機自体は部屋の外の入り口の横にあり、とりあえず汚れ物を入れて洗濯機を回すと次は干しっぱなしの服を洗濯物干しから外したたんでいく。

先程風邪薬を探すのにあちこち触ったおかげで洋服が入っているカラーボックスを見つけており、たたんだ服はそれに入れてあげる念の入れようだ。

かおりは元々父が厳しいので正直部屋を片付けないなどあり得なかったが、一般的な男性は割とずぼらで部屋が汚ないことくらいは知ってはいたようである。


「誰や? 横島の新しい女か?」

「妖怪!? いえ違いますわね。 貧乏神?」

「失礼な! わいは福の神や!」

洗濯物干しに干しっぱなしだった洗濯物を仕舞うとそろそろ洗濯機の様子を見に行こうと部屋を出たかおりだが、ここで偶然隣の部屋のドアが開き小鳩と福の神の貧が出てくると小鳩は驚きかおりを見つめてしまうが貧は遠慮のかけらもなくかおりに声をかけていた。


「福の神様? にしては貧乏神のようなオーラが……。」

「貧乏神は元や! 今は福の神なんやけどまだ新米やから力がないんや! それでおまえは誰やねん!」

「失礼しました。 私は弓かおり。 その……横島さんの友人ですわ。」

一方のかおりは突然現れた隣人に少々驚くも、それよりも怪しげな貧に警戒心を強めている。

さすがに横島と違い妖怪とは間違わなかったが、貧乏神に間違う辺り貧の福の神としての力はまだまだたいしたことがないらしい。


「友達が男の独り暮らしの部屋に来て洗濯するか? 横島のやつ見掛けによらずやることやっとったんか。 小鳩! 負けてられへんで!」

「貧ちゃん失礼なこと言っちゃダメよ。 初めまして私は花戸小鳩です。 貧ちゃんがすいませんでした。」

結局一応神族らしいので態度を改めるかおりもまだ疑ってる上に口が悪いので警戒は解かないが、小鳩はそんなかおりを煽るような貧に注意するとかおりには深々と頭を下げて謝罪していた。


「あっ、いえ。」

かおりも小鳩が謝罪したことにより警戒を解くが、双方ともに目の前の人物と横島の関係が気になり仕方ない様子である。

小鳩はもちろん横島の洗濯をするかおりにただの友達ではないだろうと思うし、かおりもまた先程貧が口にした負けてられないとの言葉が引っ掛かっていた。

というかお互いに鈍いタイプではないのでかおりも小鳩も共に相手が横島に好意を持ってることは一目瞭然である。

加えて元々社交性に難があるかおりは小鳩に横島との関係をなんと尋ねればいいか分からず悶々としてしまい、横島の部屋の前では微妙な雰囲気が広がっていた。




79/100ページ
スキ