その一

「まったく、貴方という人は。 もう少し霊能の勉強をなさった方がいいですわよ。」

横島を半ば無理矢理納得させたかおりは横島の無知と非常識さにため息を漏らすも、その間もずっと横島の手を抱き締めるように握ったままである。


「すいません!」

「いえ、こちらこそ。」

両者ともにそれどころではないのであまり意識しなかったが、一息つくとどちらからともなく手を抱き締めていることに気付きパッと離れてしまい横島は横島で何故か平謝りをしてしまいかおりもつられるように謝るという奇妙な会話をしてしまう。

しかもかおりは横島が寝ている布団に覆い被さるほど間近に居るため、かおりばかりか横島でさえも意識してしまっていた。

双方共に顔を合わせられぬまま横島は抱き締められた右手に感じたかおりの温もりと感触に思わずドキドキしているし、かおりもまたあまりに大胆なことをしてしまった自分が恥ずかしくてたまらない。

ともかくかおりは冷静になろうと切ってしまった指に絆創膏を貼ると食事の支度に戻っていく。


「さあ、どうぞ。」

その後微妙な沈黙に耐えかねたのか横島がテレビをつけるとかおりも横島も一応冷静に戻り、しばらくすると横島の食事が完成する。

昨日もろくに食べてない横島なだけにお粥を中心に生姜湯とフルーツも用意していた。

あいにく横島の部屋には土鍋がなかったのでお粥は普通の鍋で作ったようだが、卵とネギが入っていて風邪で食欲が落ちた横島でも美味しそうだと感じる。


「ありがとうございます。」

とりあえず茶碗に半分ほどよそってもらうと久し振りのまともな食事を口にする横島は、冗談抜きに涙が出そうになるほど美味しいと思った。

正直食欲はあまりなかったのだがお代わりするほど食べてしまい、夢中で食べる横島にかおりも満更ではないようでホッと一息つく。


「忘れないうちに薬を飲んだら少し寝て下さい。 夜はもう少し食べごたえのある物を作りますわ。」

そして生姜湯とフルーツで水分も十分とらせたかおりは買ってきた体温計で横島の熱を計り、少し下がったことで薬を飲ませて寝せると自分は後片付けをする。

病院にも行ったし食事と薬を飲ませれば後は回復を待つだけなので本当に気が楽になった。

その後かおりは自身も昼食を取るとやることがなくなったのか、やっと大人しく眠った横島の寝顔を眺めていた。

起きてると妙なことを口走ったり霊力を使おうとしたり目が離せなかったが、こうして眠る姿を見てると今まで見てきた横島とはまた別の印象を受ける。

出会った時は変人だとしか思えなくその後もしばらく似たような印象だった。

友人であるおキヌにしてもダメ男が好きな変わり者だと内心では思ってたほどだが、雪之丞との問題では意外なほど頼りになり思いの外頭がよく冷静な人だなとすら思った。

だが親交を重ねるうちに変人でも冷静でもない等身大の横島を知ることが出来ている。


「臆病なのですね。 本当に。」

正直寝顔を見る限り黙っていればモテそうなのにと思ってしまうほど見た目は悪くはない。

誰もが見惚れるイケメンではないがどちらかと言えばカッコいい方で、イケメン過ぎる男より案外モテそうなのにと不思議に思う。

ただかおりは横島の本質がとても臆病であることに気付いている。

流石に臆病過ぎるかなとも思うが、実は霊能者は臆病なくらいの方が長生き出来るとも言われている。

人によっては霊能者は才能よりも臆病さが必要だと言うほどに、自分の才能を理解し過信しないことがいいとされるのだ。

自ら闘いを求める雪之丞よりも案外臆病で闘いを避ける横島の方がGSには向いてるのかなとかおりは考えながら、しばらく横島の寝顔を眺めていくことになる。



78/100ページ
スキ