その一

結局横島は次の日曜にかおりを雑誌で見た場所に案内することでかおりの機嫌を直すことに成功している。

かおりと横島はそれを嘘がないか証明する為だと共に口にしていたが、端から見るとそれはデート以外の何物でもないのは言うまでもないだろう。


「ゴホ、ゴホ。」

しかしそんな約束の前日の土曜になると横島は数日前から珍しく風邪を引いてしまい一人部屋で寝込んでいた。

なんとかは風邪で引かないと言うが健康だけが取り柄の横島が引くだけにかなり悪質な風邪なのだろう。

幸い今日はバイトもないので一日寝てれば治るかと熱で少し意識が朦朧とする中で横島は静かに寝るだけである。



「あら一文字さん珍しいですわね。 えっ!? 風邪? 聞いてませんわ。」

「そうなのか。 タイガーが昨日学校で横島さんがかなり具合が悪そうだったって言ってたから一応な。 おキヌちゃんにも教えたんだけど、おキヌちゃんは今日は実家に帰るから行けないって言ってたからさ。」

同じ日、自宅に居たかおりに横島が風邪を引いてることをわざわざ電話で伝えたのは魔理であった。

どうも前日の午後辺りから具合が悪そうで先生に出席にしとくから帰れと帰されたらしい。


「あの、一文字さん私……。」

「私には関係ないけど、おキヌちゃんとはちゃんと話せよ。」

滅多なことで自宅に電話などしてこない魔理がわざわざ横島の風邪を教えてきたことにかおりは何と話せばいいか分からず言葉が詰まるが、魔理は自分はともかくおキヌとかおりの関係を心配していた。

そんな魔理にかおりはお礼を告げて電話を切ると、一度横島に電話をしてみるが出ない為心配になり横島のアパートに向かうことになる。


「確かこの辺りだったはず……。」

実はかおりは横島のアパートの場所は以前聞いたことがあるが実際に行ったことなどあるはずもなく、若干ドキドキしながら向かっていた。

行っても留守の可能性もあるしすでに治ってる可能性もあるが、居ても立っても居られなかったと言うのが本音だろう。


「ここですわね。」

少し迷いながらもなんとか横島のアパートに到着したかおりは郵便受けに書かれた横島の名前と住所を確認して控え目にドアをノックしてみる。

しかしノックしても出てくる気配がないので二度三度とノックするが反応がなく、仕方ないので帰ろうと最後にドアのノブを回すとなんとカギは掛かってなくドアが開いてしまう。


「ごめんください。 横島さん……。」

まさかカが掛かってないとは思わなくドアが開いてビックリするかおりであるが、中を覗くくらいは構わないだろうと中を覗くと中からはテレビの音が聞こえる。

返事がない理由はテレビの音で聞こえないからかと少し怒りが込み上げて来たかおりは、先程よりも大きな声で声をかけるも相変わらず返事はないままであり流石に何かおかしいと思ったのか悪いと思いつつ勝手に部屋に上がり込んでいく。


「横島さん、居るなら居るで返事くらい……。」

まさか返事が出来ないほど寝込んでるのかと不安が募ったかおりは部屋に入るとあまり使った形跡がない台所を通り部屋にはいるが、そこにはテレビの音が響く中で息苦しそうに呼吸を荒げて本当に苦しそうに寝込む横島の姿があった。




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