その一

その後は横島もようやく魔理やタイガーにおキヌの微妙な視線に気付いたらしく口をつぐんでしまう。

尤も横島の場合はかおりとは違い先程の会話で自分とかおりの関係がバレたとまでは思ってなく、少し前のように自分がかおりに嫌われ責められてるようにしか見えないだろうとたかをくくってもいたが。

その一方で横島はかおりの誤解をどう解こうかとそちらに頭を働かせていた。

横島自身はかおりとの関係が友達でしかないと思い込んでいるものの、それはそれとして最近二人で会うのが嫌なはずもなく楽しみにしているので嫌われたくはないのだ。


「いや、コーヒーが美味いな。」

「そうですわね。」

結果として横島とかおりは先程から急に大人しくなり、横島がかおりの様子をチラチラと見てはお互いにコーヒーやらケーキが美味しいと口にしているだけであった。

まあ実際のところかおりとしては横島との関係をもう隠す必要はあまり感じてなく、おキヌに打ち明けた時から魔理にも話してもいいかとは考えている。

ただかおりの問題は今一つ横島の気持ちが分からないことだった。

かおり自身は好意があるのは行動で伝えてるつもりだが横島は未だに理解してない上に、意外に女性に優しいのはかおり自身もよく理解している。

雪之丞の件で悩み苦しんでいた時に見返りも求めずに支えてくれたことで横島に惚れたかおりであるが、それが現状の問題でもあり横島が自分をどう思ってるのか分からないのが不安なのだ。

自分は横島のことを以前に友達以上ではないと否定しておきながらも、自分が横島に友達以上を否定されるのが怖いのである。

自分勝手だとかおり自身も少し嫌になるが、願わくばこのまま形を作る前に既成事実を積み上げていきたい。


「さてと、私は帰るよ。 修行したいしね。」

「ワッシも付き合うですケン。」

「私も付き合いますよ。」

一方予期せぬ形でいつの間にか親しくなった横島とかおりの関係を見せ付けられた魔理とタイガーだが、魔理は根掘り葉掘り聞く性分ではないので邪魔者は消えるよとばかりに一足先に帰ることにする。

横島とかおりとおキヌの関係がどうなってるのか気にならない訳ではないようだが、おキヌがあまりショックを受ける様子もない以上は首を突っ込む気がないらしく同じく横島とかおりの雰囲気をどうしていいか分からないタイガーとおキヌが便乗する形で三人は一緒に帰ってしまった。

ただおキヌの場合は表情にこそ出さないがかおりが気付いてない横島のかおりに対する好意をすでに見抜いており、横島とかおりの二人と一緒に残されるのは少々つらいという本音もある。

おキヌ自身は横島に対する好意は変わらないが昔と変わらぬ横島を見れば見るほど、ルシオラとルシオラを愛していた横島を思い出し何も出来なくなるのだ。

ぶっちゃけ横島自身はそれなりに気持ちに整理をつけているのだが。


「弓さん、本当にデートする相手なんて居ないっすからね!? 家に帰れば雑誌がありますし。」

「私のことは誘ってくれないのに、随分勉強熱心ですわね。」

「いやだから今度弓さんを誘おうと思って。」

ちなみに残された横島とかおりだが二人はおキヌ達が帰ると先程の疑惑で再び口論していたが、横島の言いがいまいち嘘臭いのでかおりの疑惑はなかなか完全には晴れなかった。

二人は周囲の客のニヤニヤとした生暖かい視線に見守られながらしばらく同じやり取りを繰り返すことになる。





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