その一

「おはようございます。」

そして次の日曜には約束通り横島と待ち合わせをして会うかおりだが、待ち合わせ場所には見知らぬ女性が居て横島と親しげに話をしている。

その様子にどういう顔をして声をかければいいか悩むも、偶然知り合いにでも出会したのかと笑顔で挨拶をする。


「あっ、弓さん。 こちらみょう……。」

「横島さん挨拶は後にして先に移動しましょう。」

かおりを見るなり横島は女性を紹介しようとするが、女性は挨拶を後にして移動しようと告げると横島とかおりの肩に手をかけて瞬間移動してしまう。


「えっ!? 今のは瞬間移動!? ここは一体!?」

一切説明をされてないかおりは突然周りの景色が変わったことに驚き目を白黒させているが、女性は少し意味深な笑みでそんなかおりを見守っている。


「小竜姫様、瞬間移動で移動するなら事前に言わないと弓さん混乱してるじゃないっすか。」

「……小竜姫…さま?」

「そうっすよ。 ここは妙神山でこの人はここの管理人の小竜姫様っす。」

一体何が起きたのかと戸惑うかおりであるが、横島が突然説明もなく瞬間移動した小竜姫に軽い調子で少し文句を言うとかおりは小竜姫という言葉に反応して固まったように小竜姫を見つめた。


「まさか、妙神山修行場の管理人をされてる竜神族の小竜姫様ですか?」

「ええ、そうですよ。 初めまして弓かおりさん。」

「貴方という人はっ! 妙神山に連れて来るなら来ると何故事前に言わないのですか!! 神族にお目にかかるのに正装もしてなければ手ぶらなんてありえませんわ!!」

その瞬間、かおりは冗談かと笑いそうになるも小竜姫から感じる微かな神気に顔色が真っ青になり我を忘れたように慌てて横島に文句を言う。


「いや、小竜姫様がちょっとビックリさせてみようって言うからさ。」

「そもそも何故小竜姫様が私のことなど知ってるのです!?」

「いや雪之丞のこと神族のヒャクメに調べて貰ったからその流れでさ。 元々俺と雪之丞は妙神山で試練を受けたから顔見知りだし他に頼める人居なくて。」

「まあまあ、痴話喧嘩もそのくらいにしてとりあえず中にどうぞ。」

目の前で始まった痴話喧嘩を小竜姫は面白そうに見ていたが、流石に横島の助けを求めるような視線にかおりを落ち着かせ中に案内するがかおりは未だに信じられないと言わんばかりだ。

小竜姫の前で取り乱したからかガチガチに緊張したように固まるかおりに、小竜姫はクスッと笑みを見せると楽にするように言うが流石にすぐに緊張が解けることはない。

というかかおりはこの時、横島の非常識さを改めて痛感していた。

そもそも妙神山は軽々しく来ていい場所ではなく、限界まで修行した霊能者が己の限界を越える為に来る場所というのが一般的なオカルト業界での認識だ。

デートのように気軽に連れてきていい訳ではない。


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