その一

「そうですか。 横島さんは参加するのですか。」

「俺に選択の権利はないからな。 美神さんもおキヌちゃんには甘いし。 弓さんはどうするんだ?」

「正直迷ってますわ。」

令子とおキヌが再び協同除霊を行うべく動いたことで横島とかおりは再び二人で相談することになるが、横島は自身に選択の権利がないと諦める一方でかおりは迷っていた。

すでに横島に会うのに理由は必要ない段階まで関係が進展した以上は、何がなんでも参加したい訳ではない。

まあ実家の闘竜寺は完全な修行なのでいくら頑張っても普通の高校生としての小遣いしか貰えないので、小遣い稼ぎにはちょうどいいのは確かだ。


「アルバイトにはちょうどいいんですけどね。 将来GSになるならある程度お金は貯めたいですし。」

「あれ、弓さんは実家を継ぐんじゃないの?」

「……これは氷室さんにも誰にも話してませんが、私は普通のGSになりたいんです。」

迷いどうするか悩むかおりであるが、そんな彼女は意外なことを口にして横島を驚かせる。

幼い頃から闘竜寺の跡取りとして弓式除霊術の継承者として育てられたかおりであるが、実は彼女の本音というか夢はごく普通のGSになることだった。

別に実家が嫌いだとか父が嫌いだとかそんな単純な理由がある訳ではないが、自分の人生が寺と家を守っていくだけで終わるのは嫌なのだ。

生活だって決して裕福とは言えず幼い頃から楽しみもない修行の日々を送ってきたかおりにとって、いつかこの生活から抜け出したいとの思いは密かにあった。

かおりの父は人として尊敬出来る人ではあるものの、反面で何故自分達ばかりが苦労と忍耐の日々を送らねばならないのかと考えることは今でもよくある。


「こういう言い方は良くありませんが、私は自由に生きたいんですわ。 実は寺とか宗教とかもあまり好きでは……。」

今まで父に反抗などして来なかったかおりは誰にも本心を明かさずに胸のうちに秘めていたが、人知れず自由に生きる為に家から離れるタイミングを探していた。

彼女が令子に憧れていたのもその自由な生き方からに他ならない。

そもそもこの世界には神の存在が認められているが、だからと言って神は人とは関わることのない遠い存在である。

寺を営む実家も苦労ばかりがあるが、別に神族から労いの言葉の一つもある訳ではないのだ。

実際問題として寺を継がねばバチが当たるとか神罰が下る訳ではないし、日本では宗教とGSの分離は進んでいる。

かおりの実家の闘竜寺に関しても弟子の誰かが継ぐか、さもなくば純粋な寺として霊能とは切り離すべきだとか一人考えていた。


「そうだ、今度の日曜に予定ある? 良かったら付き合って欲しいとこあるんだけど。」

「はい? 日曜は特に予定はありませんが……。」

「いいとこに連れてくから楽しみにしててくれ。 弓さん絶対に喜ぶと思う。」

そのままかおりの本音をただ無言で聞いていた横島だが、ふと何かを思い付いたのか話が一段落すると自分からかおりを日曜に誘うことにする。

何処に行くのか気になる様子のかおりであるが、横島は楽しみにしててくとしか言わなかった。


62/100ページ
スキ