その一

「横島クンの時給ねぇ。 本人が言い出すならまあ分かるけど、なんでおキヌちゃんがこだわるわけ?」

一方かおりに横島の件を指摘されたおキヌは、令子の機嫌が良さげな時を見計らって横島の時給を最低限として一般のバイト並みに上げるべきではと頼んでいた。


「やっぱりおかしいですよ。 このままじゃ美神さんも悪く見られますよ?」

「またあの子が何か言ったのね。 まあ言うわよね、あの子なら。」

おキヌはかおりの名前を一切出してないが令子からすると言わなくてもお見通しらしく、問題は横島だけでなく令子の評判にも関わると説得するも令子はため息混じりに何とも言えない表情を見せる。

美神事務所は令子の城であり主たる令子は絶対君主のような存在だった。

それは師匠の唐巣といえど口出しはさせてないほど徹底していたが、堅物そうなかおりが実情を知ると多かれ少なかれ口出しするのは目に見えていた。

いつもならばこのまま突っぱねて終わりにする令子であるが、実は令子としてもかおりに少なからず興味がある。


(少し試してみるべきかしら?)

果たしてかおりは何処まで横島に本気なのか、そして横島は彼女をどう思っているのか令子は知りたい。

令子自身は横島から一歩引いてはいるものの気にしていることに変わりなく、かおりがルシオラのことを含めて受け止められる人物なのか見極めたいとは思い始めていた。

自分でも勝手だと思うが出来れば横島とルシオラの問題を含めて現世で全て解決出来ればいいとの考えがある。


「おキヌちゃん、また貴女と横島君達で仕事してみる? 何度か貴女達で仕事して成果を残せば横島クンの時給も考え直してみるわ。」

正直なところ令子はかおりをほとんど知らなく、彼女を試すにも現状では関わりが少なすぎた。

横島とかおりを試す意味でも前回の除霊旅行のように若い者達で仕事をさせていくのが必要かと考えを纏める。


「仕事ですか?」

「雪之丞はどうでもいいけど、他は実戦経験は欲しいでしょうしピートも現金収入が入るならやると思うわ。 最悪おキヌちゃんと横島クンと弓さんの三人なら任せてもいい依頼は結構あるわ。 どう?」

対するおキヌは何故横島の時給アップの話からまた除霊の話になるのか理解出来ないようだった。

そこでピンハネするのかと考えもするが、そんな面倒な方法を取る理由が浮かばない。

実際令子はかおりを見極めたいだけで後はどうでもいいと言っても良かった。

ただ魔理のような足手まといの人材も居た方が横島やおキヌ達の修行にはなるとは思うが。

まあ令子の立場上では闘竜寺の跡取り娘をそう何度も除霊に連れ出す訳にもいかないので、若い者達が自主的に修行してるという体裁が欲しい。


「少し考えさせてください。」

「とりあえず一件百万もしない安い依頼を考えてるわ。 条件は前回と同じ。 普段なら断るような依頼だけどおキヌちゃん達が修行するにはちょうどいいはずよ。」

結局おキヌは令子の思惑を考えつつも自分達の状況や損得を考えて、かおりや魔理に相談してみることにする。

仮に多少令子にピンハネされても悪い話ではないし、おキヌ自身は横島の問題のみならず魔理の問題でも頭を抱えていたので令子の提案は渡りに船であった。

60/100ページ
スキ