その一

そしてその日の放課後になると、かおりは用事があるからと早々に学校を出ると横島の学校に向かっていた。

実は前回美神事務所の最寄りの駅に行った時も、かおりは学校付近で横島を探したりした後の行動だったのである。

今回は出来れば早めに会いたいと校門が見える場所で横島を待つことにした。


(私はいったい何をしてるのでしょうか?)

まるでストーカーのような自身の行動にかおりは落ち込む気持ちを宥めて横島が来るのを待つ。

しかし横島は一向に姿を現さず時間だけが過ぎてゆき、前回と同じように美神事務所最寄りの駅に移動しようとしたその時よくやく横島が姿を現す。


「あっ!?」

それはもう他の生徒が誰も居ないほど辺りが暗くなった頃だった。


「あれ、久しぶり。 しかし、最近よく会うな」

一ヶ月前と変わらぬ仕種で驚く横島にかおりは少しホッとした表情を見せる。

横島は全く気にしてないが、かおりは以前の八つ当たりをまだ気にしており嫌な顔でもされるかと内心不安だったのだ。


「折り入って相談したいことが……」

ホッとしたかおりだが今回も前回のように逃げられては困ると早々に用件を伝えるが、横島はなぜか周りをキョロキョロと見渡し不思議そうに首を傾げる。


「相談って俺にか?」

偶然会ったはずのかおりが突然相談したいことがあると神妙な面持ちで話すと、横島はドッキリか新手の悪戯かと本気で疑っていた。

しかし周りにはそんな気配はないしかおりも真剣である。

正直横島からすると相談相手を間違えたんじゃないかと思うが、真剣な表情のかおりに対し流石にそれは言えずに話を聞くことにした。


「それじゃファーストフードかカラオケでも行こうか? ああ俺と一緒に居るとこ見られるとダメだしカラオケにするか」

財布の中身を思い出す横島はギリギリだなと思うが、まさかかおりをあのアパートに連れていく訳にもいかずに人に見られにくい場所がいいだろうとカラオケに行くことにする。


「元気そうだね」

「はい」

「この前おキヌちゃんが褒めてたぞ。 美神さんみたいだってさ」

「そうですか」

カラオケまでの道のりを少し距離を開けながら歩く二人だが、横島が話しかけてもかおりの返事は一言であり会話が続かない。

暗くてかおりの表情は見えないが、横島は相変わらず嫌われてるなと思うと苦笑いを浮かべてしまう。


(優しい人だったんですのね)

一方のかおりは別に横島を嫌ってる訳ではなく、なんと言っていいか分からずに若干緊張していただけだった。

この一ヶ月かおりはもしかすると、雪之丞よりも横島のことを考えていたかもしれない。

裏切ったまま弁明にも来ない雪之丞にはとっくに愛想が尽きたが、その分あの日の横島の行動が気になっている。

無論好みのタイプでないのには変わりないし恋愛的な感情は皆無だが、全く興味がない訳ではなく何故か気になるらしい。

そのまま微妙な距離感と空気はカラオケまで続くことになる。



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