その一

それから数日後の放課後、横島とかおりはいつもの公園で会っていた。

今回の特徴はすでに会う目的自体はなく誘ったのは相変わらずかおりであるが、横島も会う目的を聞かなかったことにあるだろう。

現時点で横島にどこまで恋愛感情があるかはともかく、高校生らしいかおりと会うのが楽しみであることに変わりはない。


「へー、霊能科の勉強も大変なんだな。」

この日は横島がなんとなく霊能科の勉強に興味を持ったことで、かおりの教科書やノートを見せて貰っている。

霊能力を使って除霊することはもちろん学ぶが、GSになる上での幅広い知識も霊能科の授業では学んでいた。


「霊能科には学問としてオカルトを学ぶ生徒も多いですから。 オカルト産業はその性質上霊能者を優遇して採用してます。 除霊アイテムの開発なども日本では盛んですし、GSと違い安定した霊能者の就職先として人気なんですわ。」

元々素人が実戦で学んだことしか知らない横島は、GS以前にオカルト業界そのもので知らないことが多い。

オカルト業界は別にGSが全てではなくGSを頂点にオカルト産業と言えるほどに業界の裾野は広がっている。

除霊アイテムの開発販売は元より霊的産業廃棄物の回収や処理業者など多岐にわたる。

六道女学院なんかでは危険なGSよりも実際にはこちらのオカルト産業への就職狙いの学生も多かった。

かおりは教えるというほどではないがそんな横島の知らない世界を語って聞かせていく。


「確かにな。 毎回命かけて除霊するよりは安定した方がいいよな。」

「普通はGSでも毎回命をかけるなどしませんわよ。 そんなことしていたら命が幾つあっても足りませんわ。 極力危険を減らして安全に除霊するのが一般的ですから。」

「あっ、なるほど。」

そのまま二人はオカルトの話をしつつ互いの価値観の違いを話していくが、スリルとお金を求める美神令子は必ずしも一般的なGSとは言えず横島はGSの普通というものを初めて知ることになる。

一方のかおりもまた世界最高峰と言われる令子の除霊の実体験を聞き、その凄さと非常識さを知ることにもなるが。


「あまり他人の悪口は言いたくはないのですが、普通は除霊でおとりなど使いませんわよ。 怪我をしたり死んだらどうするのですか? 正直、美神お姉さまは人道を軽視してるとしか思えません。」

そして中でもかおりを唖然とさせたのが、横島が実質おとりとなって除霊をしていることだった。

別にかおりもそれほど人道主義などではないが、普通は生きた人間でしかも素人をおとりになど使わないと言い切る。

まあ昔はあったのかもしれないが最近はほとんどなくなり、特に六道女学院ではその手の安全や人道に関しては厳しく教えているという事情もあった。

美神令子という実力があれば安全におとりを使うことも可能なのだろうかとかおりは思うが、一般的な価値観からはやっていいことには思えない。

実のところかおりは横島を中途半端に除霊に参加させてることからして令子のやり方には否定的である。

実力的に口出しなどする気はないが本来GSになるにはそれなりの修行や勉強は必要であり、なまじ実力があるだけに横島は中途半端なままで業界でもトップクラスの実力を持ってしまっていた。

正直端から見るとそれは本当に危険なことであり、荷物持ちなのかGSなのかはっきりさせてGSにするなら相応の指導をするべきだと思う。


「弓さんが美神さんのこと否定的に言うなんて珍しいな。」

「GSとして尊敬はしてますが、別に美神お姉さまの全てを盲信するつもりはありませんわ。 本来霊能者は誰よりも人道に配慮するべきなのです。」

そんな令子に対して否定的なかおりに、なんとなく美神事務所での除霊を話していた横島は素直に驚いている。

なんと言うか本人の言葉を借りるならば令子を盲信していたようなかおりだけに、横島は実力がないのだからおとりなども当然だと言われると思っていたのだ。

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