その一

その後ゲームセンターを出た二人は残りの午後も街をぶらぶらしてこの日のデートは終わっていた。

次回の約束は特にしなかったが、かおりとしては現状ではこうして会う機会を自然と増やしていけばいいと考えている。


「氷室さん今日少し時間あるかしら?」

そして新たな一週間が始まって数日が過ぎた頃、かおりは再びおキヌを誘い一緒に帰っていた。


「単刀直入に言いますわね。 横島さんの時給の件ですわ。 貴女何故放置してるんですの?」

前回と同じファーストフードに入ったかおりは、何の話かと少し不安げなおキヌに単刀直入に用件を伝える。


「それは……。」

「私は詳しい理由は聞いてませんが、貴女を友達だと思うからこそ言います。 親しき仲にも礼儀あり。 特にお金の問題は人間関係が破綻する原因ですわよ。」

かおりの用件が横島の時給と聞いたおキヌは正直返答に困ってしまう。

おキヌ自身は直接関係なくとも知らぬ存ぜぬは通用しない。

ただかおりも別におキヌを責めるつもりはなく、友達だからこその忠告である。


「本人が納得してることを氷室さんから言うのが難しいのも分かりますが、最低限のルールは守るように言わないといつか後悔しますわよ。 私は実家の職業柄、僅かなお金で争う人を幼い頃より見てきました。 横島さんに限ってと思うのは危険だと思いますわ。」

基本的に他人の弟子や事務所に口出しするのはオカルト業界では暗黙の了解としてタブー視されている。

かおりもまたこの件を口外する気はないが、それでもこのまま見てみぬふりをしては友人であるおキヌの為にならないと真剣に思っていた。


「まあ私は無関係な人間ですし、この件をこれ以上誰かに言うつもりはありません。 もしやむにやまれぬ事情でもあるなら余計なことを言ったことを謝りますわ。」

「……何故なのかは私にも分かりません。 私も時々言うんですけど、美神さんがまだ必要ないからって。 今の事務所の形を変えたくないのかもしれませんし、本心では横島さんに甘えてるのかもしれません。」

なかなか言葉が出てこないおキヌにかおりは友人としての忠告を終えると無言になり、しばらくの沈黙の末におキヌはようやく語り出す。

ただおキヌにしても正直よく分からないとしか言いようがなかった。


「そうですか。 別に修行中は無報酬であることはオカルト業界では珍しくありませんわ。 ただ普通は最低限の衣食住は保証するのが常識ですけど。 それと横島さんは私に今も自分は基本的に荷物持ちだと言ってましたわ。 この場合弟子ではなくアルバイトとすると問題なんです。」

おキヌには直接的な原因がないと聞き少しホッとしたかおりはオカルト業界の常識というか現状を語るが、必ずしも安い賃金で弟子を扱うことがない訳ではない。

いわゆる内弟子のような形であればだが。

ただ横島に関しては荷物持ちのアルバイトだと公言したこともあり、弟子ではなくアルバイトならば倫理的にも法律的にも問題になる。


「氷室さんも一文字さんのことばかりにかまけてないで、もう少し自分のことを考えるべきですわよ。 正直端から見ると異常にも思えます。」

結局おキヌは事情を話すとそれ以降悩むばかりで言葉は出てこなく、かおりは友人としての忠告を再度して話は終わっていた。


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