その一

「美神さんが弟子を取らないのは今も変わらんだろ。 俺は時給なんかいくらでもいいって頼んでやっと雇ってもらたんだしな。 現に今も安い時給で荷物持ちのままだもの。 おキヌちゃんは例外というか特別なんだよ。 美神さんにとって。」

色香にやられたという横島にかおりはクラス対抗戦の時を思い出す。

なんというか当時は女にガツガツし過ぎたスケベな変人との印象しかない。


「ちょっと待って下さい。 今も荷物持ちのままなんですか?」

「うん、そうだな。 基本的に俺は一人じゃ除霊なんかしないし。 前にも言わなかったっけ? 必ずしもGSを目指してる訳じゃないって。」

やっぱり元々変わった人なんだと改めて横島を見ていたかおりであるが、話が横島の美神事務所での立場や待遇に進むと我に帰り驚いてしまう。

そもそも横島のことに関しては根本的な認識の違いがいろいろある。

特にかおりに関してはどうしても横島を令子の弟子として見てしまうが、元々令子と横島の関係は師弟関係とは言いがたい。

現状でも横島の立場は美神事務所の荷物持ちであって、見習いGSとして修行や勉強なんてしてない。

良く言えば実戦で育ててると言えなくもないが、結果的な側面が強く令子も横島本人も必ずしもGSにすることやGSになることを考えている訳ではなかった。

極論を言えば横島も魔理と同様に人に教わろうとかオカルトの勉強をしようとはしてなく、才能と実戦で生き抜いた経験だけでなんとなく除霊をしている。

以前にも説明したが横島には一生の仕事にする覚悟も決意もないのだ。


「そうなんですか。」

それはかおりからすると何とも言えないというのが本音で横島ほどの才能があるのにもったいないとも思うが、同時に霊能力に覚醒して一年足らずという事実が重くのしかかる。

実際にGS業界では横島のような例が無いわけではない。

将来を期待された若者が様々な理由でオカルト業界から去るのは日常茶飯事だった。

かおりの知る寺社系GSでも跡継ぎが別の道に進んだというのは割りと聞く話になる。

先祖代々地域に密着した寺社ならば尚更現代の高い除霊料金を取れないことも多く、寺社が除霊貧乏になるならばとあえて寺社を継がない者や霊能者として修行をせず除霊をしない寺社も現代には多い。


「時給255円じゃ卒業したら生きてけないしな。 中途半端にGSやるより他の仕事してみたい気もするけど。 俺には美神さん達みたいな覚悟はないからな。」

「……時給255円? それはGS手当かなんかですか?」

「いんや、俺の全時給。 ここだけの話、美神さんってお金が好きなんだよ。 人よりだいぶな。」

横島の現実に何と言えばいいか分からぬかおりだが、そのままの流れで横島の口から時給の額を聞くと流石に信じられないようで唖然としてしまう。

思わず荷物持ちの時給にGS手当てがあるのかと思ったほどで、かおりは横島は元より令子やおキヌも頭がおかしいのではと思ったほどだ。


「それにしてもあんまりでは?」

「うーん、俺も散々迷惑かけたしな。 前はセクハラとかしてたし。 今更時給アップして欲しいって言えないからさ。」

「おかしいですわよ。 まるで腫れ物を触るように接するなんて。」

元々根が真面目なかおりは横島と美神事務所の関係の異常さに気付くと思わず熱くなり始め、横島に対して遠慮なくおかしいと言い切る。

しかし横島としてはある意味令子にとって自分がその価値しかないのだろうと思っているし、実際過去のセクハラなどでマイナスになった価値が回復してないのだろうとしか考えてない。



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