その一

さて横島とかおりの二人だが、都内をブラブラして繁華街でウインドウショッピングをしていた。

横島としてはもっとお金のかかるデートらしい場所をと考えていて結構お金を持ってきたが、かおりに行きたい場所を尋ねると意外と言っては失礼だが日頃あまりいけないショップを見て回りたいとの答えだったのだ。


「へー、女子高生ってこんな店に来るんっすね。」

基本的に入る店は日曜ということもあって十代の女の子が多く、低価格帯の商品が多い店である。

横島自身はよくよく考えてみると女の子と買い物なんて事務所のお使いでおキヌと厄珍堂やホームセンターなんかに行ったくらいしか記憶にない。

繁華街でナンパをすることは時々あったが女の子がどんな店に行ってるかなんて全く知らなかった。


「どうですか?」

「おっ! よく似合うよ。 街で見かけたらナンパしたくなるな。」

洋服や小物類に雑貨などかおりの趣味のままに見て歩くが、基本的に女性を褒めることには一切抵抗感がない横島はとにかく褒めまくっていく。

尤も横島の誉め言葉は微妙にズレてる時もあり、かおりは少し反応に困ることもあったが。

ただそれでも元恋人の雪之丞は女性を褒めるなんてことは一切出来なく、買い物なんかだと照れ隠しで文句を言うタイプなのでかおりにとっては新鮮である。

ケンカするほど仲がいいとの言葉もあるように雪之丞には雪之丞の良さがあったが、かおりとしては素直に褒められたかったというのが本音なのかもしれない。


「俺も昔はこんな風に普通の学生生活が理想だったんだけどなぁ。」

そのまま午前はウインドウショッピングをした二人だが、横島のさりげなく買い物した荷物を持つなどの無自覚な行動がかおりを更に惹き付けていく。

横島としては日頃から荷物持ちをしてる習慣でしかないが、そんな何気ない行動がかおりの胸には響いていた。


「何も諦めたような言い方をしなくても。 まだ遅くないと思いますわ。」

そして昼食はファミレスに入り食事を取る二人であるがまるで本当のデートみたいだと感じた横島は、ふとこんな日常が高校に入った頃の夢だったと語り出す。


「家の両親さ、俺が高校に進学する年の春に海外に飛ばされてさ。 俺は南米のジャングルになんか行きたくないから親と喧嘩して日本に残ったんだ。 学費やアパート代なんかの最低限の仕送りはあったけど生活は出来なくてな。 結局理想の高校生活とは無縁な現実だったよ。」

まるですでに諦めたように語る横島にかおりは以前感じた冷めた横島を思い出すが、横島にはまだ三年生の一年間があり諦めるのは早いと言葉を返す。

実際ここで諦められるとまるで自分は眼中にないように言ってる気がしてかおりとしては面白くない。

まあ横島が必要以上に他人に期待しない性格なのは今更なので表面上は冷静に受け止めていたが。

そんなかおりに対して横島は慰めの言葉と受け取ったのか、自身の高校入学の際の話を懐かしそうに語り始める。


「そう言えば、何故美神お姉さまの事務所で働き始めたのですか? 美神お姉さまって弟子入りは一切断ってるって有名でしたのに。」

「ああ、その件か。 一言で言えば色香にやられたんだろうな。」

横島の身の上から話は自然と美神事務所で働くきっかけに移るが、そのあまりにストレートで露骨ともいえる答えにかおりはしばし返す言葉が浮かばなかった。

55/100ページ
スキ