その一

一方雪之丞との別れをかおりから聞いたおキヌであるがその件を魔理やクラスメートに口外することはなかった。

かおりが口止めした訳ではないが秘密を抱えるプライドが高い人の扱いは令子で慣れていたおキヌは、自分からその件をくちにするつもりはないらしい。


「そう、横島君とあの子がねぇ。」

ただ横島の予測通りこの日おキヌは令子にかおりと横島の関係を話している。

あのプライドが高そうなかおりと横島の関係に令子は心底驚くも、昔のように不機嫌になることはなかった。


「おキヌちゃんも遠慮しなくていいのよ。」

「私は、資格がありませんから。 ルシオラさんが居たときに勝負を避けた罰なんだと思います。」

優しく背中を押すような令子に、おキヌはしばし無言になった後に自身の気持ちを語り出す。

あの短い間の影響は今も深くおキヌと令子の胸に刻まれ一生消えない傷となっていた。

突然現れ一気に横島の一番近くまでたどり着いたルシオラに対して令子もおキヌも戦うことなく逃げてしまった。

結果として二人はルシオラに勝つチャンスを永久に逃したことになり、正面から戦わなかったことをおキヌだけではなく令子もまた口にはしないが心の奥底では後悔している。


「そこまで考えなくていいと思うけど。」

「美神さんはどうなんですか?」

「私と横島君は前世に振り回され過ぎたのよ。 だからこそ私と横島君は今くらいの距離でいい気がするわ。」

ただ令子にはおキヌにはない横島との関係で足枷になっている事はもう一つあり、それは前世から託された強すぎる希望と願いだった。

メフィストと高嶋が来世に託した希望と願いは時が過ぎれば過ぎるほど令子の足枷になり、似たような形で来世とも言える生まれ変わりに希望を託すことになったルシオラのことがトドメになっている。


「正直ね、来世とか生まれ変わりに希望や願いを託すなんて私はもう御免なのよね。 自分から言い出して勝手かもしれないけど。」

自分は何があろうと来世に希望や願いを託すのはしたくない。

これが美神令子としてのプライドであり答えだった。

かつて横島が愛した女性を我が子として産み育てるということは、間接的にだが横島と生まれ変わりでもあるルシオラの転生体と再びそれを分かち合うことになる。

横島自身は口にしないだろうがもし横島が来世はルシオラと共にと考えたと思うと、令子は自分がそれに耐えられるとは思えないのが本音だった。

結果として前世から続く因縁を自分はもう終わらせたいという気持ちが令子に横島との関係を変えることを躊躇させていた。


「美神さん……。」

「あの子でも誰でもいいから横島君とルシオラの希望と願いを叶えて更に来世に繋げてくれるなら私はそれでいい。」

ただ本当のところ横島が自分を真剣に求めてくれればと令子も思わなくもない。

そうすればまた違った答えになる可能性もあるが、現状では横島もまた令子やおキヌとの関係を変えようとはしなかった。

令子にはそれが何を意味するのかいまいち掴みきれてはないが、横島がルシオラに見せたような真剣な想いを自分に向けてくれないことが答えなのだろうとは思っている。


「正直、私やおキヌちゃんみたいにルシオラを直接知らない方がいいかもね。 なまじ知ってるだけに忘れられないもの。」

お互い過ぎた時間は戻らないと理解しつつも心から消えない状況に、令子はおキヌが口にした資格がないとの言葉が案外適切かもしれないと思う。

もしかすると横島本人よりも自分達の方が気にしすぎているかなとも考えるが、あれほど熱く真っ直ぐだった横島は後にも先にもあの時だけなのだ。

願わくば横島とルシオラがいつか何処かで幸せになることを祈るしか二人には出来なかった。





54/100ページ
スキ