その一
雪之丞の行動の真相を知ってから数日後、かおりは放課後におキヌを誘ってファーストフードに来ていた。
ここ数日も相変わらず魔理に付きっきりのおキヌを周りは良くも悪くもおキヌらしいと見守っていて、それなりに親しい友人は頑張ってと魔理とおキヌに声をかける者もいる。
実際に手を貸す者は実力的な意味でも居ないが、師匠などが居ない生徒が生徒同士で自主的に努力するのは前例がない訳ではない。
まあ教師に見放された生徒を他の生徒が手助けするのは前例があるはずもないが。
「実は先月のことですが、雪之丞と別れました。 氷室さんにはせっかく紹介して頂いたのですが。」
さてこの日魔理はタイガーと修行するからと先に帰ったため、かおりがおキヌを誘ってファーストフードに入っていたが用件の一つは雪之丞の件の報告であった。
「……やっぱり何かあったんですか?」
「そうですわね。 始めからお話しします。」
唐突に雪之丞と別れたと話をするかおりにおキヌは驚きを隠せないが、かおりに何かあったのはずいぶん前から感じていたらしく心配そうに尋ねる。
もしかすると始めから話していても良かったかもしれないと今更ながら思うかおりであるが、同時に魔理への対応を見ると話さなくて良かったとも思う。
雪之丞との問題にけりをつけたとはいえ、おキヌに隠れて横島に会っていたのは罪悪感もあるし後悔もしていた。
「そうですか。 横島さんが。」
この一ヶ月ほどの話をするとほとんどが横島の話になってしまうほど、かおりは横島に支えられていたと改めて感じる。
かおりの怒りを受け止めたばかりか真実を隠す為に悪者にまでしてしまった上に、その後も除霊旅行から先日の原因追求まで全ては横島に頼ってしまったのだから。
「そういう人なんですよ。 横島さんは。 目の前で困ってる女の人を放っておけない人なんです。」
一方のおキヌは自分に隠れてかおりが横島に会っていた事実にも、雪之丞の件を隠していたことに関しても怒ることなく冷静に受け止めていた。
過去に何度かそんなことがあったし、横島の行動原理の九割は女性なのだ。
「ずっと隠して嘘までついていてごめんなさい。」
「弓さん、ライバルは弓さんが思ってるよりずっと多いですよ。 横島さんの良さに気付いた人は私や弓さんだけじゃないですから。」
深々と頭を下げて謝罪するかおりをおキヌは責める訳でもなく文句の一つも言わないが、かおりがこれから言おうとしていた横島への気持ちの話を先に言われてしまう。
元々おキヌは横島とかおりの関係の変化の理由が気になっていたのだから、ここまで来るとかおりの中に今誰が居るのかを当然ながら理解している。
「えっ!?」
「私からお願いしたいのは、中途半端な気持ちで横島さんに今以上の距離には近付かないでほしいということだけです。 重いと感じるかもしれませんが、もし横島さんに近付きたいなら過去も未来も全て受け止める覚悟を持って下さい。 それだけの覚悟が必要なんです。」
一切かおりを責めないおキヌではあるが、その分かおりに求めるモノは重く難しいものだった。
正直それは普通の高校生に求めていいものではないが、そこだけはおキヌの譲れない一線である。
「氷室さん、それは一体……。」
「ごめんなさい。 私からはそれ以上は言えません。」
それはお節介なおキヌらしくないほど慎重で重い言葉であった。
その意味をかおりは知りたいと思うがおキヌもそこだけは言えないし、言いたくないのかもしれない。
「横島さんに会うなとは言えませんよ。 私も弓さんと同じですから。」
結局おキヌはそれ以上語ることはなかったが、どこか辛そうに語るおキヌの表情がかおりの胸に焼き付くことになる。
ここ数日も相変わらず魔理に付きっきりのおキヌを周りは良くも悪くもおキヌらしいと見守っていて、それなりに親しい友人は頑張ってと魔理とおキヌに声をかける者もいる。
実際に手を貸す者は実力的な意味でも居ないが、師匠などが居ない生徒が生徒同士で自主的に努力するのは前例がない訳ではない。
まあ教師に見放された生徒を他の生徒が手助けするのは前例があるはずもないが。
「実は先月のことですが、雪之丞と別れました。 氷室さんにはせっかく紹介して頂いたのですが。」
さてこの日魔理はタイガーと修行するからと先に帰ったため、かおりがおキヌを誘ってファーストフードに入っていたが用件の一つは雪之丞の件の報告であった。
「……やっぱり何かあったんですか?」
「そうですわね。 始めからお話しします。」
唐突に雪之丞と別れたと話をするかおりにおキヌは驚きを隠せないが、かおりに何かあったのはずいぶん前から感じていたらしく心配そうに尋ねる。
もしかすると始めから話していても良かったかもしれないと今更ながら思うかおりであるが、同時に魔理への対応を見ると話さなくて良かったとも思う。
雪之丞との問題にけりをつけたとはいえ、おキヌに隠れて横島に会っていたのは罪悪感もあるし後悔もしていた。
「そうですか。 横島さんが。」
この一ヶ月ほどの話をするとほとんどが横島の話になってしまうほど、かおりは横島に支えられていたと改めて感じる。
かおりの怒りを受け止めたばかりか真実を隠す為に悪者にまでしてしまった上に、その後も除霊旅行から先日の原因追求まで全ては横島に頼ってしまったのだから。
「そういう人なんですよ。 横島さんは。 目の前で困ってる女の人を放っておけない人なんです。」
一方のおキヌは自分に隠れてかおりが横島に会っていた事実にも、雪之丞の件を隠していたことに関しても怒ることなく冷静に受け止めていた。
過去に何度かそんなことがあったし、横島の行動原理の九割は女性なのだ。
「ずっと隠して嘘までついていてごめんなさい。」
「弓さん、ライバルは弓さんが思ってるよりずっと多いですよ。 横島さんの良さに気付いた人は私や弓さんだけじゃないですから。」
深々と頭を下げて謝罪するかおりをおキヌは責める訳でもなく文句の一つも言わないが、かおりがこれから言おうとしていた横島への気持ちの話を先に言われてしまう。
元々おキヌは横島とかおりの関係の変化の理由が気になっていたのだから、ここまで来るとかおりの中に今誰が居るのかを当然ながら理解している。
「えっ!?」
「私からお願いしたいのは、中途半端な気持ちで横島さんに今以上の距離には近付かないでほしいということだけです。 重いと感じるかもしれませんが、もし横島さんに近付きたいなら過去も未来も全て受け止める覚悟を持って下さい。 それだけの覚悟が必要なんです。」
一切かおりを責めないおキヌではあるが、その分かおりに求めるモノは重く難しいものだった。
正直それは普通の高校生に求めていいものではないが、そこだけはおキヌの譲れない一線である。
「氷室さん、それは一体……。」
「ごめんなさい。 私からはそれ以上は言えません。」
それはお節介なおキヌらしくないほど慎重で重い言葉であった。
その意味をかおりは知りたいと思うがおキヌもそこだけは言えないし、言いたくないのかもしれない。
「横島さんに会うなとは言えませんよ。 私も弓さんと同じですから。」
結局おキヌはそれ以上語ることはなかったが、どこか辛そうに語るおキヌの表情がかおりの胸に焼き付くことになる。