その一

「男の人はみんな同じなんでしょうか?」

「どうだろうな。 俺なら速攻で美神さんに泣きつくけど。」

その後しばらく沈黙が続くが、かおりはふと他の男ならどうするのだろうとの疑問を抱く。

自分は守られるだけの女にはなりたくない。

それは人生の大半をオカルトに捧げてきたかおりの本音であり譲れない一線だった。

横島はそんなかおりに笑って令子に泣きつくと言い切るが、それが横島なりに励まそうとしてることくらいかおりにも分かる。


「仮に俺が雪之丞の立場なら、多分あんな嘘はつかないかな。 残される側はたまったもんじゃないからさ。」

しかしそれでもかおりは横島の本心が知りたいと真剣に見つめ続けると、横島は少し恥ずかしそうな困ったような表情で視線を逸らしながら本音を語り始めた。

雪之丞の気持ちは十分理解するが、それ以上に横島は残される側の気持ちがよく理解出来てしまう。

横島自身似て非なることを経験しているのだから。


「ありがとうございます。 これで雪之丞のこと完全に終わりに出来ますわ。」

「へっ!?」

「何をそんなに驚かれてるんです? あんな嘘をつかれてまたよりを戻すなんてありえませんわ。」

そのまましんみりとした空気がかおりを支配するのを見た横島はこれで一件落着だろうと安堵するが、かおりはそんな横島に笑顔でお礼を告げると雪之丞とは終わりだとはっきりと言い切り横島を驚かせる。


「でもさ、雪之丞は弓さんの為に……。」

「カッコつけたいなら他の方としたらいいんですわ。 私は共に戦い共に前に進める方とお付き合い致します。」

まさか自分の行動が二人の関係に止めを刺すことになるとは思わなかった横島は呆然とするが、これが男と女の価値観の違いなのかもしれないとも思う。

不味いことをしたかと明らかに狼狽する横島に対し、かおりはスッキリしたと言わんばかりにカラオケを歌い始め横島にも歌うようにと促す。

結局二人が雪之丞の話をしていたのは僅か十五分ほどでその後は普通にカラオケを楽しむことになるが、意外にも歌が上手い横島にかおりはリクエストをしたかと思えばデュエットを頼んだりと本当に楽しんでいてこれまた横島を驚かせていた。


「本当にありがとうございました。 今回の件でご迷惑をおかけした分のお礼は必ず致しますわ。」

「いや、本当に良かったのか悪かったのか。 お礼なんてデートをしてくれれば十分……ってのは流石に無理だよなぁ。」

「構いませんわよ。 では今度の日曜に。」

「……はい?」

二時間近くカラオケを楽しんだかおりは別れ際にもう一度お礼を口にするが、横島は相変わらず良かったのか悪かったのか判断できずに困り顔である。

まあそれでもお礼はデートをといつもの調子で要求する辺り、もうなるようにしかならんと割り切ってもいたが。

それは横島にとって挨拶のようなもので冗談とまでは言わなくても本気の発言ではないが、かおりは笑顔で即返事をすると日時まで決めてしまう。

ぶっちゃけかおりも横島が本気でないのは十二分に理解していて、この際冗談でもネタでもいいので横島から誘った形になるこのタイミングを逃す気は全くない。

そもそも雪之丞の件が片付いたという事はかおりにとって横島との関係も終わるという意味を持つ。

おキヌのように放っておいても会える立場でない以上は自分から攻めなければならないのだ。


「楽しみにしてますわ。」

そのままとびっきりの笑顔で楽しみにしてると言われた横島は、信じられない様子で頷くしか出来なかった。




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