その一

それから一ヶ月ほどは特に何も変わらぬまま時間だけが過ぎていく。

横島にかおりとの別れを口止めされた雪之丞は東京には近付かないことにしたらしく、拠点を香港に移すと横島だけに連絡が来て以降は横島ですら音信不通だ。

この頃になるとかおりも完全に立ち直り雪之丞を過去の存在としていたが、あれから横島と会う機会が全くなく結局疑問は聞けずに時間だけが過ぎている。


「弓さん、一文字さん。 よかったらこの除霊を一緒にしませんか?」

そんなかおりに再び運命の悪戯をもたらしたのはおキヌだった。

おキヌがかおりと魔理を誘ったのは、地方の温泉に出る悪霊退治の仕事である。

本来は令子に来た依頼だったが、依頼場所が遠方の地方だったことと依頼料の安さに令子が一度は断った依頼だった。

しかし依頼人はどうしてもと再三に渡り依頼をして来て令子が折れた依頼だった。

最終的に令子は面倒なので横島を行かせようとしたのだが横島一人では少し信用出来なく、だからと言って未成年のおキヌと泊まりがけの依頼を二人だけで行かせるのもできるはずがない。

その結果ピートやタイガーにかおりや魔理などを加えた未熟な者達の修行の依頼にしようと決めたようである。


「一応ご両親や師匠の了解が必要ですけど、美神さんいわく私達にはちょうどいい修行になるからって」

突然の話にかおりと魔理は驚きを隠せないが、真っ先に参加すると言い出したのは魔理である。

師匠も居なく学校外での除霊経験がない魔理は、この手の話は始めてであり素直に嬉しそうだった。


「まあ他ならぬ氷室さんのお誘いですし、私も参加してあげてもよろしいですわ」

始めての学校外の除霊に喜ぶ魔理と対照的に、かおりは相変わらず冷静というか上から目線である。

魔理はそんなかおりに呆れた様子だが、おキヌは二人が参加することに嬉しそうだ。


「それと雪之丞さんもよかったら参加しないかって」

「一応私の方から聞いてみますわ」

二人の参加が決まり喜ぶおキヌは当然のように雪之丞も誘っていいと告げるが、かおりは特に感情を表すこともなく聞いてみるとしか言えない。

正直かおりもそろそろ雪之丞の件をおキヌ達に話すべきかと考えていたが、話すキッカケがないのが現状である。


(困りましたわね)

雪之丞の参加の有無の確認とおキヌ達に別れたことを話すタイミングなど悩むかおりだが、残念なことに彼女にはこの手の話を相談する相手が居ない。

結局かおりは悩みに悩んだ末に再び横島に会いに行くことにするが、問題はかおりは横島の連絡先も知らないしアパートも知らない。

学校と美神事務所は知っているが、正直直接尋ねるのは避けたかった。



5/100ページ
スキ