その一

その後全てが終わった一行は、太陽が西海岸に傾く頃になると路線バスに乗り帰路に着いていた。

バスからは一面がオレンジ色に染まる空と海が綺麗に見えており、横島はそれを少しだけ名残惜しそうに見つめながらの出発である。

そんな中で魔理は相変わらずやり場のない怒りから不機嫌なオーラを撒き散らしてタイガーをオロオロさせているが、雪之丞は我関せずといった感じだし横島も関わりたくないといった雰囲気だ。

おキヌとピートは少し居心地が悪そうに困った表情をしているが、下手に慰めても逆効果になるので何も言えなかった。


(夕日は特別ですか……)

そしてかおりは一人静かに今回の除霊旅行を思い返している。

今までかおりは深く考えなかったが、過去に横島に惹かれた女性は決して自分とおキヌだけではないだろうと思う。

それに横島が惹かれた女性も必ず居ただろうことは、あの時のおキヌの言葉と表情で分かることだった。


(氷室さんにあんな顔をさせる人が誰だか、私は知りたい)

おキヌは優柔不断ではあるが決して弱い女性ではない。

そのおキヌにあれほど悲しそうな表情をさせる特別な相手が誰なのか、かおりは知りたいと思ってしまう。

バスの窓から差し込むあの夕日のように、横島を染め上げた女性が必ず居るはずなのだ。

だがかおりはそんな自分の心を抑えるように、今はその時ではないと言い聞かせていく。

今回はそれ以外のずっと知りたかった横島の霊能者としての実力も知ることが出来たし、一緒に除霊して得たことはかなり多い。


(本当の天才とは、何処か矛盾を抱えてるのかも知れませんわね)

人生の大半を霊能の修行に費やして来たかおりにとって、他人を計るバロメータは霊能力だと言っても良かった。

そんなかおりをもってしても横島の霊能力は非常識だとしか言いようがない。

ただ雪之丞のようにライバル心が横島に起きない理由は、横島があまりにも歪んだ成長をしていたことだろう。

超一流の高い技術を持ちながらも、精神面や基礎的な不安定さをかおりは密かに感じていたのだ。

戦い方も素人そのものだったし、はっきり言えば才能と能力を生かしてないとの印象が強い。

しかし横島はまだ霊能力に目覚めて一年足らずなのだから、現状でそれ以上を求めるのは横島の為にならないとも感じている。


それにかおりは素直に怖いと思った。

一般の霊能者が一生費やしても到達出来るか分からない極致に、僅か一年でたどり着いてしまったかもしれない横島がどれだけ危うい状態かはかおりもよく理解している。

令子が横島をどう指導しているかは知らないが、あれほど歪んだ成長をしてる横島を指導するのは簡単ではない。

恐らく自分に指導しろと言われても、かおりには出来ないと思った。

まさか令子が半ば横島を放置していて、実戦で勝手に育っただけだとは流石の彼女も見抜けなかったようだ。


(仕切り直しですかね)

いろいろなことが頭を過ぎるかおりだったが、横島との今後も雪之丞とのケリもまだ何一つ解決してない。

ただ今は横島との縁が切れないだけで満足だった。


結局それぞれに課題を残した除霊旅行は無難に終わり、このあと無事に東京まで帰ることになる。



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