その一

全ての作業が終わると横島達は旅館に戻り、横島は単独で依頼人への説明の為に依頼人と一緒に再び旅館の旧館へと出向き除霊の説明や今後の後始末の説明をしていく。


「あと解体するにしても残すにしても早い時期にゴミは片付けてください。 それと原因の暴走族も入れないように対策が必要ですよ」

これが東京の依頼ならば横島もここまで詳しくは後始末の話はしないのだが、相手は地方の依頼人であり後々問題になるのは避けたかった。

普段の令子は顧客が求めない限りは報告はともかく除霊後の問題には口を挟まないが、問題の一因はゴミなどの不法投棄をここの依頼人が放置していたことにもある。

最初の原因である殺された野良犬に関しては、早々に成仏したのか先程除霊した悪霊に混ざっていたのかすら判別出来なかったが、これは不特定多数の悪霊が居る現場では仕方ないことだった。


「ゴミの撤去に暴走族対策ですか……」

依頼人は悪霊が消えた旧館を見てホッとした様子だったが、大量のゴミや暴走族が残した落書きが痛々しいほど残っている。

それの対応にまたお金がかかるのかと少しぐったりした様子だったが、こればかりはどうしようもない。

元々この依頼は旧館の敷地をきちんと塀や柵で囲っておけば防げたというのが横島達の結論だった。

除霊評価と今後の対策に掛かった金額を考えると、建物を中途半端に放置していたツケがいかに大きいかをシミジミと感じていた。



一方旅館に戻り帰る時間まで自由時間になった他のメンバーだったが、魔理は居ても立っても居られないのかタイガー相手に修行を始めている。

かおりやピート達も彼女のやる気は評価するが、結局修行内容が戦闘技術に偏ってることにはなんとも言えない表情を見せていた。

まあ魔理からすれば先程経験した四方八方から来る見えない悪霊を想定しているのだが、根本的な問題として除霊は悪霊を倒せばいい訳ではない。

それならばいっそおキヌにでも除霊の基礎知識を教わりでもすればいいのだろうが、本人の感覚ではあの程度の悪霊に対応出来ない自分が許せないのだろう。


(確かに奇妙と言えば奇妙ですわね)

そしてかおりは戻って来てから暇そうにロビーのソファに座っている雪之丞が視界に入ると、昨日の横島の言葉を思い出し少し考え込んでいた。

突然見知らぬ女を連れて来て子供が出来たから別れてくれとはっきり言われた時は頭に血が登ったが、よくよく考えればかおりも雪之丞もきちんと告白して付き合っていた訳ではない。

しかも奥手な雪之丞の影響か、二人は手を繋ぐことすらした経験がないのだ。

そんな雪之丞が見知らぬ女と子供が出来てしまい別れて欲しいと頭を下げたのだが、落ち着いて考えると何か釈然としないものを感じる。

まあ子供が出来て以降はあの女のいいなりだったのだろうと考えると納得する自分も居るが。


(まあ、どちらでもいいんですが)

横島の直感からもしかすると何か訳があるのかもしれないと考えるかおりだが、それでも別にどうでもいいと考え始める。

仮に何かあっても素直に相談すらしてくれなかったのだと思うと、最早以前のように戻れるとは思えなかった。

かつては雪之丞の強さに惹かれ不器用で少し身勝手な性格も強さの証だと思えたが、同時にかおり自身も弱みを見せたりそれを受け止めてもらった記憶はない。

結局雪之丞とは良くも悪くもライバルだったのだとかおりはシミジミと思う。



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