その一

「少し休みましょうか」

一方おキヌは付近の悪霊をようやく片付けると、建物に入る前に休憩に入ろうと言い出していた。

雪之丞達や横島達がすでに建物に入っていることから魔理は不満そうだったが、おキヌは半ば強引にでも魔理とタイガーのかすり傷をヒーリングで治療しつつ休憩をさせる。


「焦ったらダメですよ。 雪之丞さん達や横島さん達は除霊に慣れてるんですから。 私達は私達のペースでやらないと取り返しのつかないことになりますよ」

思うように除霊出来ず明らかに足手まといになってる現状に、魔理は自分自身に苛立っていた。

実際魔理はおキヌの指示が無ければ気付かなかった悪霊がたくさん居たのだ。

悪霊自体は落ち着けば見えるし一撃で除霊も出来るのに、除霊が始まるとほとんど反応出来ないのだから自分自身に相当苛立ってるらしい。

というかどう考えても自分がおキヌとタイガーの足を引っ張ってる事実に気付いている。


「今回のような不特定多数の悪霊が居る現場だと、霊的な環境がよくないので見極めが難しいんですよ」

そんな魔理をおキヌは落ち着かせるようになだめつつ、状況の説明をしていく。

そもそも悪霊が集まる場所は霊的な環境が良くなく、陰の霊気が溜まっていたり霊圧が高かったりなどして霊感が発揮しにくいことが多い。

まして弱い悪霊が大量にさ迷ってる環境だと、周りの全ての悪霊を人間が感知するのはGSでも楽ではなかった。

学校の実習以外の現場が始めての魔理に、不特定多数の悪霊を全て感知して除霊しろと言うのは無理である。


「クッ、なんでアタシだけ!!」

しかし自分以外のメンバーが出来てることを、自分だけが出来ない状況に魔理は納得出来なかった。

散々見下していた横島でさえすでに建物内部に入ったのだから、彼女の自分への怒りは収まらない。

ただ正直な話、今回の依頼は除霊未経験の魔理には荷が重いとしか言いようがなかった。

仮に雪之丞やかおりでさえ、初の現場でこんな場所に来れば魔理と同じになるだろう。

おキヌはその辺りも魔理に優しく説明していくが、根本的に自分と友人達の実力差を認めれないうちは無駄なことである。


「もういいから早くいこう。 すぐに慣れるからさ」

苛立ちや怒りは焦りに変わり魔理は早く他のグループに追い付きたいと動き出そうとするが、おキヌとタイガーはそれを認めなかった。


「魔理サン、落ち着いて下さい」

「そうですよ。 焦ってはダメです」

基本的におキヌとタイガーは魔理の力量に合わせて慎重に進みたいが、魔理は雪之丞達や横島達を意識して追いつきたいと考えてしまう。

一度や二度の経験で追いつける力量の差ではないのだが、本人にはそれが分からないのだ。

実際に経験すれば得られるモノは多いが、自分の力量を認められない彼女の場合はそれを得て無事に帰れるか分からないのが現実である。

彼女はやる気と根性でなんとかしようと考えてるようだが、それは無謀としか言えないとおキヌは理解していた。


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