その一

「あの……何故……?」

「何故ってなにが?」

信じられないモノを見るようなかおりの呟くような言葉に、横島は意味が分からずに首を傾げるしか出来ない。

そもそも横島とかおりでは価値観から考え方まで全然違う。

かおりからすると何故横島がそこまでするのか理解出来ないが、横島はさほど深く考えた訳ではなくなんとなくそうしたたけである。


「あっ、俺と一緒に居るとこなんかまた見られたら困るか。 気持ちの整理も大変だろうが頑張ってな」

戸惑うかおりに横島はその意味を理解出来ずに、一緒に居るところを見られたら困るのだろうと考えると慌ててその場を離れていく。

かおりは聞きたいことが全く聞けずに横島を止めようとするが、すでに横島は改札口の向こうに行ってしまった。


(何故……)

何故かおりを庇うのか、そして何故あの日のかおりの八つ当たりに関して何も言わなかったのか。

聞きたいことは全く聞けずに逆に疑問が増えてしまう。

雪之丞に裏切られたあの日以来冷静にはなったが、悩み苦しむかおりにとって横島の行動は全く理解出来ないままだった。

結局彼女はモヤモヤとした気持ちを解釈出来ぬままに帰ることになる。



それから一週間ほど過ぎると六道女学院では、横島の件がようやく過去の出来事として話題に出ることも無くなっていた。

最終的に元々低かった横島の評価がまた一段と下がっただけで終わるが、かおりの気持ちは晴れないままである。

雪之丞との関係はかおりなりにはようやく気持ちの整理をしつつあったが、その時間を作ったのが横島だと言う事実が胸の中で引っかかてしまう。

おキヌの会話に時折出て来る横島と言う名を聞くたび、かおりは胸が痛む気がした。



「お前のせいで俺は散々だったよ」

一方の横島はこの頃ようやく雪之丞と会い詳しい事情を聞いていた。

まあ事情と言っても特に語るほどの内容ではなく、相手の女性は以前の依頼人だったらしい。

依頼を解決して是非お礼でもと言われて食事をしたらしいが、誘われるままにヤってしまったとのことだ。


「くっそー、羨ましい奴め」

「そう言うなって。 実際弓とは何にもしてないしな。 あいつ固いんだよ。 それにGSは金持ちだと思われてるから誘惑も多いんだよ」

割とよくある浮気話に横島は羨ましくて仕方ないらしく雪之丞を羨ましそうに睨むが、意外なことにかおりとはあまり深い関係ではなかったらしい。

加えて世間一般ではGSが金持ちだと思われており、結構誘惑が多くモテると聞けば横島は更に不機嫌になる。


「お前も独立すれば多分同じだぞ。 そんなに羨ましいなら独立すればいいだろ。 俺やお前みたいな道具使わん奴は事務所構えなくてもやっていけるぞ」

美神事務所では今だに立場が低くお世辞にも扱いがよくない横島は実感がないが、雪之丞は横島も独立すれば同じだと話の論点をずらしていく。


「そういえばお前、美人紹介する話はどうなったんだよ!」

「ああ、それはまた今度な」

話をごまかそうとした雪之丞だが、横島が思い出したように当初の美人を紹介する話を持ち出すと今度紹介すると慌てて帰って行った。

結局横島は苦労の割にまた報われなかったと肩を落とすしかなかった。



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