その一

そのまま建物の周囲の悪霊を片付ける一同だったが、四方八方から現れる悪霊達は生者であるGS達に次々と襲い掛かる。

自我のカケラもないような弱い悪霊ばかりだったが、それは言い換えれば霊能者側も探知しにくい特性があった。

真っ先に建物に突入したのは雪之丞とピートだったが、二人は迫り来る悪霊達を全て一撃で次々に除霊していく。


「一文字さん! 右下です!!」

そして建物が近くなればなるほど余裕が消えていくのは、やはり魔理だった。

元々霊体は上下左右も関係無ければ物質でさえすり抜ける。

弱い低級の悪霊では魔理が見えるのはせいぜい視界に入る範囲のみであり、特に下の土の中から現れる悪霊には彼女は全く対応出来てない。

しかも悪霊は一体ずつ向かって来る訳ではなく本能の赴くまま不規則に向かって来るので、喧嘩慣れしてる魔理は喧嘩とは全く違う戦いに逆に苦戦してしまう。

かおりと同じく神通棍を使っているおキヌと体を張って魔理を守るタイガーのおかげで致命的な怪我こそないが、小さなかすり傷は少しずつ増えていた。


「行くか」

一方の犬の墓でしばし立ち止まっていた横島とかおりは祈り終えると再び除霊を再開するのは、雪之丞達に先に建物の中に入られた後だった。

一応おキヌ達は一番悪霊が少ない場所に配置したのだが、霊力が弱い魔理が狙われ始めたらしく悪霊がおキヌ達の方に流れ始めている。

雪之丞達や横島達は本気を出してはないが、元々のスペックの違いは大きかったようだ。


「落書きにゴミまでありますわね」

「足場もあんまりよくないみたいだな。 慎重に行こうか」

おキヌ達を少し気にする横島とかおりだったが、助けに行くほどでないと判断し建物の中に入る。

しかしそこはたくさんのスプレーによる落書きと、ゴミが乱雑に散らばる最悪の環境だった。

ゴミに関しては犬の墓や建物の周囲にも多かったが、中も予想以上に多い。

一番多いのは飲食したゴミなんかだが、大きい物だと古い家電なんかの粗大ごみまである。

建物自体も元々古く床板が軋む音は当然として、床板に穴が空いていたりヒビが入ってる場所もあった。

その上に歩く場所もないほどゴミが散乱してるのだから、除霊よりも歩く方が大変で気をつけねばならないくらいだ。


「除霊に来てゴミを片付けなきゃならんとはな」

見渡す限りにゴミが散乱する建物内を横島が最低限歩けるようにゴミを端に寄せていき、かおりがその間に横島を守っている。

ちなみに雪之丞達はゴミを踏みながら除霊していたが、横島は流石にかおりが怪我をしないようにと最低限の歩くスペースを作っていたのだ。


「……器用ですわね」

ただかおりは栄光の手を伸ばしてほうきのような形態にしたり、マジックハンドのように伸ばしたままゴミを掴み片付ける横島を驚いたように見ている。

横島は知らないが霊力でそんなことをできる人間は滅多に居ない。

そもそも霊能者がみんなそんなことが出来るならば神通棍は売れないだろう。

かおりはあまりにアンバランスな横島の霊能力にただ驚くしか出来なかった。


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