その一

さっそく現場に移動した横島達はすぐに除霊を始めることにするが、除霊対象の建物の周囲にも悪霊は漂っている。

昨日決めた組み合わせに分かれて、除霊残しのないように周囲の悪霊から一体ずつ除霊を開始した。


「みんな気合い入ってんな」

除霊開始と共に気合いの入った様子で除霊する雪之丞達やおキヌ達を横島は他人事のように見ている。

実力を懸念された魔理も、今のところはおキヌとタイガーのサポートで上手くやれてるようだ。


「行きますわよ」

そして横島とかおりの二人だがかおりは奥義水晶観音を用いずに自前の神通棍だけで除霊をしており、横島は彼女に続くがかおりがほとんど一人で除霊するので横島はあまりやることが無かった。


「そういえば弓さん薙刀使ってなかったか?」

「武器は一通り使えますわ。 今回は室内ですし薙刀よりは神通棍の方が使いやすいですから」

横島の中で神通棍といえば令子のイメージが強いが、かおりは令子よりは断然動きが基本に近い。

そんなかおりに横島は感心するように続くが、一応横島もかおりの死角になる背後を中心に霊波刀で除霊しており仕事はしていた。

ただあまり緊張感がないのは相変わらずであったが。


(一年ですか……)

一方のかおりは自分の除霊をしながらも横島の除霊を確認する余裕さえあり、その動きや戦い方を注視していた。

霊能力に目覚めて僅か一年の横島の本当の実力を誰よりも知りたかったのはかおりなのだ。


(確かに動きには無駄が多いですが……)

横島が除霊する姿は一見すると無駄な動きも多く、お世辞にも動きだけ見れば実力者には見えない。

しかし横島が実力の一割も出してないことはかおりも十分理解しているし、何より横島は霊力値がかおりと比べても圧倒的に高いのは感じていた。

加えて緊張感があまりなく軽く出してる横島の霊波刀も、一般的な霊能者ではなかなか出せる出力ではないのである。


「これって……」

建物の周囲に漂う悪霊を除霊しながら歩く横島達だったが、横島は枯れた花や水が備えられた墓らしき物を見つけた。

それは土を盛った上に丸い石を置かれただけの質素な墓だったが、情報にあった殺された犬の墓だろう。

しかもこの墓には誰かが踏んだような足跡がいくつもあり、墓石変わりの石にはスプレーで落書きされている。


「なんて酷いことを……」

墓を見つけた横島とかおりは周囲の悪霊を警戒しつつもそこで立ち止まると、墓とその周りを綺麗に片付け始めた。

横島もかおりも特に片付けようと言った訳ではないが自然と片付けており、怒りの表情のかおりに対し緊張感が無かった横島でさえ不快そうな表情に変わっている。


「今、綺麗にしてやるからな」

周囲のゴミを拾い枯れた花を近くに咲いていた花に変えると、横島は突然文珠を出すと墓石にされていたスプレーの落書きを一瞬で消してしまった。


「……今のが文珠の効果ですか」

「落書きされたままじゃ成仏出来んだろうからな。 書いた奴は遊び半分でも書かれた方は忘れられないからさ」

貴重な文珠を墓石の落書きを消すことに使った横島に驚くかおりだったが、横島はまるで自分の体験のように悲しそうにぽつりと呟く。

そんな初めて見るような横島の姿に、かおりは言葉が続かぬまま横島と共に墓に手を合わせていた。
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