その一

一方の横島も雪之丞とピートと露天風呂に入っていたが、こちらは特に会話もないまま露天風呂と絶景とも言える景色を楽しんでいた。

特別重苦しい空気がある訳でもないが、会話をする雰囲気でもない。

ただ沈みゆく太陽を見つめてるだけだが、雪之丞とピートは当然気を使ってるのだろう。


(水平線に沈む夕日なんてあの時以来かな……)

耳を澄ませば聞こえる波の音と海の匂いに、横島は過去へと想いを馳せる。

それは横島が初めて彼女を意識した時だったかもしれない。

逆天号の甲板でルシオラと海に沈む夕日を見たあの時のことは、今でも鮮明に思い出せた。

特別感情に浸るつもりはないが、今この瞬間に彼女が居ない寂しさは感じずにはいられない。

一緒に夕日を見ると約束したはずなのだから。



「凄いですノー」

そんな横島を過去から呼び戻したのは後から来たタイガーだった。

若干空気が読めない彼は露天風呂の景色に素直に驚きの声を上げる。


「デートしてたんじゃないのか?」

「魔理サンに頼まれて一緒に修行してただけですケン」

楽しそうにニコニコとするタイガーに少し羨ましそうな横島が冷たい視線を向けるが、どうやらタイガーと魔理は散歩といいつつ修行してたらしい。

魔理にしても自分の実力が足りない自覚はあるらしく努力はしてるのだ。

惜しむべきは努力の内容が戦闘技術に偏ってる悩筋なことか。


「みんなやる気あるなぁ」

正直横島は魔理が苦手だが、やる気という点でいえば自分より遥かにあるのは理解してる。

おキヌ達や雪之丞達も同様だが、自らの意識でGSを目指す者と横島には大きな違いがあった。


(GSかぁ……)

そのまま再び無言になった横島は、夕日を眺めつつGSや将来を少しだけ考えることになる。

周りはみんな将来を決め努力をしてるメンバーなだけに、横島はどこか疎外感を感じずにはいられない。

本音を言えば令子やエミや唐巣のような一流のGSに成りたいとの気持ちはあまりないのだ。



そんな横島が風呂から上がったのは、夕日が完全に沈んだ後だった。

風呂から上がり浴衣を着た横島は、先に上がった雪之丞達がゲームコーナーで遊ぶのを見つけるも自身はお土産売り場へ足を向ける。

あまり予算はないがお土産を買って行きたい相手は何人か居るのだ。


「なんかいいお土産あった?」

「あっ、横島さん。 結構いろいろありますよ」

お土産売り場に行くと、先にお土産を見ていたおキヌ達三人を見つける。

横島はおキヌに声をかけて自身もお土産を見ていくが、なかなかこれといった物はない。


「横島さんもクラスメートに?」

「それはピートが買うだろ。 クラスメートだと愛子って机の妖怪がいるからあいつくらいかな。あとは日頃世話になってる人くらいだよ」

あまり広くはないお土産売り場に居るため、横島とおキヌ達は嫌でも相手が何を見てるのか分かってしまう。

かおりはなんとなく横島がお土産を買う相手が気になりそれとなく尋ねるが、見知らぬ存在に微かに心が揺れる気がした。



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