その一

実際のところ横島は六道女学院やかおりの実家が、どれほどの立場なのかはほとんど知らない。

ただクラス対抗戦の時に令子がチラリと言っていた言葉を使っただけである。


「少しお時間を頂いてもよろしくですか? 流石に即決は出来ませんので……」

「それならば明日の朝にもう一度話しましょうか」

最終的に依頼人はこの場での交渉を避けて時間が欲しいと告げた。

金額が金額なだけに報告書と合わせて旅館側で相談も必要なのだと言う。

その結果横島は明日の朝に再交渉することでこの日の話し合いは終わる。


「上手く論点をずらしましたわね」

「勝手に名前使ってごめんな。 一文字さんのことは突っ込まれるとフォローのしようがないからさ」

報告と交渉が終わるとこの日の仕事は終わりであり、魔理はタイガーと一緒に散歩に行くと告げて別れた。

かおりとおキヌとピートは横島と雪之丞が泊まる部屋に来て今後の相談を始めるが、魔理とタイガーが居なくなったことでかおりは先程の交渉の件を話し始める。

依頼人が魔理の素性を気にしていたのは、横島ならずとも本人以外は気付いていたのだ。

横島はそんなかおりの名前を勝手に使ったことを謝るが本人は気にしてないらしい。

というか魔理の件を追求されて同じレベルだと思われたくなかったらしく、それを避けれたならばいいとの判断だった。


「よく交渉決裂しなかったな」

「向こうが考える時間欲しいからって結論を持ち越ししたんだよ。 美神さんの名前が効いてるんだろうな」

一方交渉に参加しなかった雪之丞はかなりの確率で除霊無しになると思ったらしく、結論を持ち越したとのことに驚いている。

未成年が揃ってる上に特攻服なんか着てる者が居たのだから、向こうが警戒して当然なのだが。


「それじゃ一応除霊の計画立てておくか」

そのまま横島は厄介な人が居ないうちに除霊の計画を立てようと考えて話し合いを始めるが、少々難易度が上がったとはいえここに居るメンバーには決して難しい依頼ではなかった。


「二手に分けるか? それとも三組に分けるか……」

「問題は互いの実力を知らないことでしょう。 私も横島さんやピートさんの詳しい実力を知りませんし」

除霊の計画について前提条件が幾つかあり、一つはおキヌのネクロマンサーの笛の不使用である。

正直ネクロマンサーの笛を使えば楽なのだが、楽過ぎて修行にならないのだ。

加えて問題なのは組分けをどうするかだった。

実のところ互いに実力を知らないメンバーばかりなのだから。


「能力的に考えるなら雪之丞と弓さんは分けないとダメだしな。 一文字さんとタイガーも多分分けないとダメか」

互いに実力や能力を知らない中で唯一知るのは横島とおキヌだが、横島は雪之丞とかおりやタイガーと魔理などの恋人や元恋人の組分けは能力的には難しいと考える。

まあ雪之丞とかおりならば除霊出来ないこともないのだろうが、別れた二人に組ませると問題が起きそうなので横島的に却下だった。


「一文字さんに関してですが彼女は基本的に多角的な攻撃は捌けませんし、強い悪霊よりも低級霊などの方か対応出来ませんわよ」

能力優先にするか人間関係を優先にするかで悩む横島だが、そんな横島に魔理に関する爆弾を落としたのはかおりである。



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