その一

そして横島達が調査を終えて温泉旅館に戻ったのは、すでに午後三時を過ぎた頃だった。

途中旅館の人が気を効かせて昼食にと弁当を持って来てくれたので一時間ほど食事休憩をしたが、最終的には三時間以上調査に時間を使っている。

旅館に戻った横島は早々に依頼人に報告することになるが、一つホッとしたのは魔理が特攻服から普通の服に着替えたことだろうか。

本音を言えば横島は魔理には報告と交渉には来て欲しくないのだが、本人はやる気満々であり当然のように着いて来てしまう。

代わりに雪之丞とタイガーは休憩してるからと来なかったが。


「千五百万ですか……」

依頼人は横島達の調査報告書を見て、まず値段に驚き引き攣った表情を見せる。

令子からは最低二百万とは言われていたのである程度増えることも覚悟はしていたらしいが、千五百万は流石に予想を遥かに越えていた。


「基本査定額としては妥当な金額です。 納得がいかないならば他のGSにも調査を頼むことをお勧めします」

報告書を読む依頼人に横島は千五百万でも妥当だと告げて信じられないなら他にも調査を頼めと言うが、依頼人は何とも言えない表情のまま報告に目を通していく。

特に原因が不良や暴走族などによる犬の虐殺だと知ると、表情にこそ出さないが理不尽さを感じずにはいられないようである。


「いや疑ってる訳ではなく、あの旧館に千五百万は払えないんですよ。 あの建物はすでに価値がないに等しいですし、土地も売れないんです」

報告書に一通り目を通すと依頼人はため息混じりに事情を話すが、当然廃屋になっている旧館とその土地に千五百万もかけられないのが現実だった。

建物は解体するだけでも高くつくし、海沿いの小さな集落のはずれにある土地なんて評価額はあっても売れるはずもない。

査定額の真偽云々の前に払えるはずのない金額であった。


「当方も今回は見習いの研修を兼ねてますので、具体的な相談は可能ですよ」

依頼人の様子は断るしかないといいたげな表情であり実際断ろうとしたのだろうが、その微妙な瞬間に横島は値引きが出来ることを匂わせる。


(先に釘刺しとかないと問題視され兼ねんしな)

横島が値引きの材料としたのは見習いの研修だったが、本心は魔理の問題を土壇場で交渉材料にされないためであった。

横島達に弁当を届けてくれて送り迎えしてくれた従業員があからさまに魔理を避けてたことから、温泉旅館で魔理の件が噂になり問題視されるのを避けたかったのだ。


「研修ですか……」

横島の言葉に依頼人は少し考える仕種を見せると、チラリと魔理に視線を向けていた。

やはり特攻服の話は聞いているのだろうし、気持ちのいい話ではないのだろう。

まして今回の霊障の原因が暴走族などの不良な訳だし、同じ部類の連中に好感を抱くはずがない。


「ええ、彼女達は六道女学院というGS育成専門の学科がある学校の生徒ですし、彼女は特に闘竜寺という名門の人間です。 同年代でこれだけの人材を集まるのは滅多にないことですよ」

問題が魔理に移りそうなのを察した横島は六道女学院とかおりを全面に押し出すことで、意図的に魔理をスルーした。

万が一依頼人が調べてもかおりならば問題にならないのは明らかだし、魔理に関しては重要な人物ではないと依頼人に悟らせる必要があったのだから。



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